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欠けた彼女と混濁した彼と

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 現在 池袋・某ビルの屋上にて

「俺はあの時、死を覚悟した。誘拐犯より帝人が怖かった、帝人に殺されると思った」
 屋上からの飛び降りと急降下、地面スレスレの急停止という一連の流れがなければ正臣は恐怖を忘れて天狗になり、そして人間と人獣の間で揺れていただろう。しかしアレだけは二度とごめんだ、と人間の生活に食らいつくことにしたのだ。両親にすら誘拐の原因を話さず一時期は少し揉めたが、良くも悪くも放任主義の両親は追及を止め、何事もない日常を人間として謳歌している。それでも正臣の恐怖対象第一位が帝人から動いた例はなく、高いところへ行くとあの事件(というよりその後のトラウマの原因)が思い出されてならない。高所恐怖症にならなかったのと、帝人と今でも友人をやっていられるのは奇跡に近い。
「冗談じゃなく走馬灯みたいなのが見えたからな」
「助けたのに酷い言われ様だなぁ」
それ程に正臣にとって衝撃だったのだ。そして帝人が本当に当時80歳以上だと知ってまた衝撃を受けた。因みにそれを信じたのは落下地点にいた帝人の仲間達に彼の武勇伝を語って聞かされ、見せて貰った色褪せた写真の中の彼が全く変わらない姿をしていたからである。数年前に埼玉を離れてからチャットのみでの交流が続き、昨年になって再開した時は、知っていたとはいえ本当に変わらない外見をしていて叫びそうになった。
「あれ以来、俺は人間として慎ましく生きてきた。これからも人として穏やかに生きる」
「慎ましく穏やかな人はカラーギャングの筆頭なんてやらないよ」
「集まっちまったもんは仕方ないだろ」
そして黄布賊の将軍という立場にいることが帝人に知られ、埼玉にいる間は放任的な両親に代わって保護者的な立場にあった帝人から説教を食らった。やはり帝人が一番怖い。
「とにかく、人間として生きる俺が互助会に登録したのは、ちょっとした恩返しにでもなればっていう、言わば軽い気持ちだ」
「知ってる。でも郷に入れば郷に従え、だから」
 互助会はその名の通り互いに助け合う会だ、登録しているなら手の空いている限りで助け合わなければならない。黙殺や裏切りは強制退会、二度と救いの手が差し伸べられることはない。因みに有償だが背に腹は代えられないという場合も少なくないので商売としても成立する。創始者であり仲介人であり管理人である帝人から回される仕事のみで生計を立てている輩もいるくらいだが、今回の正臣は完全に臨時のアルバイトである。しかしバイトだろうが何だろうが、登録しているならば選択の余地はほとんどない。
「分かってるけどよー、出来ればワイヤレスバンジーは嫌なんだわ」
 今回の件は誘拐された子供の救出だ。助けられた側が助ける側に回るとは感慨深いものがあるが、如何せん状況が似ているために思い出してしまう。
「僕も背負えないしね。端末より重いものは持てないんだ」
「非力ジジイ」
「飛び降りる?」
「スミマセンっした!」
 随分と重くなった正臣を帝人が背負うことはもうないだろう、そのため正臣が単独で飛び降りれば死ぬことはなくても重傷を負うことは想像に難くない。階下に通じる扉は追っ手からの逃亡のために帝人が炎で溶接してしまったし、通風孔は正臣の体格では通れない。ただ、誘拐された子供はセルティに頼んで逃がした後だったのが救いだ。
「隣のビルに移るよ」
「うげぇ……」
「大丈夫。今日は晴れてるし、月齢も7割を超えてる。後は正臣次第だから」
「他人事だと思って簡単に言いやがって」
 はぁ、と溜め息を吐いて月を見る。良い月夜だな、と思うと同時に内側からザワザワと何かが騒ぎ始めた。
「無事だったら何か奢れ」
「はいはい。 ――――お先に」
帝人が音もなく地を離れ、重力を無視して跳ぶ。正臣は何を奢らせようかと考えながら、ダンッ、と勢い良く地を蹴った。
作品名:欠けた彼女と混濁した彼と 作家名:NiLi