二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

まだ早い夜の断片

INDEX|6ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

 人力飛行機。北見がもっとも避けたい話題だった。
 三年時、彼のクラスでは文化祭の出し物として人力飛行機を飛ばしたのだ。学校の倉庫に作りかけのそれが残されているのをたまたま発見し(それは過去に卒業していった先輩がやろうとして頓挫したものだった)、人力飛行機を飛ばそう、と提案したのが北見である。彼はひょんな流れで文化祭実行委員長をやることになっていて、はじめは乗り気ではなかったのだけれど、催事が決まってからはまるで別人のようによく働いた。皆の仕事をきちんと指示し、雑用も積極的にこなした。北見が竹下と親しくなったのも文化祭の準備作業をつうじてだったし、彼がサッカーを諦めないと決めたのもあの時期だった。クラス皆が一丸となって、教師の反対に遭い、一時は中断の憂き目にあいながらも、飛行機は飛んだ。
 北見はくじでパイロットの役を引き当て、実際に飛行機を飛ばした。皆が苦労して作った飛行機が飛んだとき、北見は今までに感じたことのない達成感を覚えたのだ。同時に、こんな自分でも必死になればなにかができる、と思った。事実周囲から見て飛行機を飛ばすことにもっとも熱心だったのは北見だった。責任感のあるリーダーとして彼がクラスの士気を高めていた。そういうふうにクラスメイトに聞かされて、ずいぶん照れくさく思ったけれど、少しだけ自信がついたはずだった。
 だからこそ北見は同窓会に出席したくなかったのだ。あの頃の自分に比べて、今の自分はどうだ。脳天気でよく喋り、それなりに人当たりのいい北見。傍目には何も変わっていない。だが実際には変わっていないどころかどんどんと劣化していっている。飛行機が飛んだときのあの達成感も、着水した飛行機を抜け出しながら掴んだあの確かな実感も、今の北見には残っていないのだ。それどころか今の北見は、漠然とした夢も希望も失った、残滓にしか過ぎないのだ。それを誰かに見破られてしまうことが怖くて、幻滅されることが怖くて北見は同窓会を避けた。そしてきっと、そこにいるクラスメイトたちは輝いているだろうということも欠席の理由のひとつだった。彼らに対しても、竹下に抱いているようなねばねばとした感情を抱かざるを得なくなってしまうと思うと、ますます行きたくなくなった。楽しいはずの同窓会に行って一人惨めな思いをするのは嫌だった。
作品名:まだ早い夜の断片 作家名:nabe