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No Rail No Life

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【FATIGUE/疲労】


「……ばかあにき」

 アルコールなど感じられなかったのだけれど、それでも山陽の卵酒に眠気を催して横になっていたら、誰かの気配を感じて薄目を開けた。室内は既に暗くて、シルエットだけでは誰だかわかりそうもなかった。
 しかし気配や、何よりもその声で、それが誰かなどすぐにわかってしまった。そんな風に東海道を詰るのは、どう考えてもひとりしかいないではないか。
「…とう、かいどう、」
「――だから、アンタも一緒だっての…」
 弟は少し苦笑したようだった。
 そうして、生意気にも自分より背丈の高い彼は、床に膝をついてこちらの枕もとに顔を近づけてきた。
「…アンタ、いっつもそうな」
「……?」
「疲れてぶっ倒れんの、ずっとそう。全然変わらないのな」
「……そんなことは」
 ぼそぼそと言う、その言葉がはっきりと発音できているのか、自分でもあまり自信はなかった。けれどどうやら弟には伝わったようだ。
「あるだろ、そんなこと」
 正しく読み取って、東海道(ジュニア)は呆れたように、咎めるような響きでもって言った。
「なんかあっちゃあぶっ倒れんの、そろそろやめろよな…」
 ため息まじりの台詞はしかし、確かに兄を案じる思いをどこかに含んでいるように思えた。気のせいかもしれないが、気のせいだとは思いたくなくて、東海道(兄)は瞬きして続きを待ってみた。
「…なんか、いえよ」
 似た者兄弟の下の方は、どことなく拗ねた調子で続けた。けれどももう少し黙ってみることにして、上の方はじっと弟を見る。
「…ちっ。…馬鹿、アンタほんとに馬鹿だ」
「…馬鹿はないだろう、わたしに向って」
 そこは「兄に向って」ではないのか(あるいは「上官に向かって」)、と思ったが、「わたしに」というあたりはとても兄らしいように思えて、東海道(ジュニア)は吹き出してしまった。
「…なんだ?」
 怪訝そうに眉根を寄せるのに、弟は苦笑交じり答える。
「アンタらしいと思っただけだ。…飯は食えたのか?」
「…林檎を食べた。…アイスも食べたかな」
「水分と糖分しかないじゃないか。アンタたちは一体何考えてんだ?」
 呆れた、という調子で言う弟に、兄はむ、と眉をしかめた。しかし、弁解しようにもいい言葉が思いつかなかった。いつもならもっと華麗に反撃してみせるのに。
 兄らしく、上官らしく、ふるまえるはずなのに。
「…味噌のいり卵」
「…は…?」
 がさがさとスーパーの袋をこするような音がしたかと思うと、タッパーらしきものを取り出し、弟はテーブルの上に置いた。容器は二つあった。
「あと、米。炊いたやつ。お茶漬けのもとおいとくから、あと卵はレンジであっためて食べろ。…以上」
 弟は口早に言うだけ言うと、そそくさと立ち上がった。
 …どうやらここまでの話は前ふりで、本題はそこにあったらしい。
「…東海道」
「なんだよ」
 去ろうとする背中に呼びかければ、弟は苦虫をかみつぶしたような様子で振り返った。だが、それが照れ隠しの顔であることなど、付き合いの長さでわかる。わかってしまう。
「…ありがとう」
「…ふん。…アンタがおとなしいと気味が悪い。…いつもみたいに高飛車なのがアンタらしいよ」
 板についていない厭味など、愛情の裏返しでしかない。
 パタン、と閉まった扉の向こうに視線を送りながら、東海道は小さく笑った。
作品名:No Rail No Life 作家名:スサ