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No Rail No Life

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 越生は静かに衝撃を受けたが、衝撃が大きすぎて声もなかったので東上は気づかなかったらしい。
「越生、今夜はしゃぶしゃぶにしようねー」
「…おぅ」
 結局しゃぶしゃぶなのか、と頷きながら、越生は覚った。
 ――要するに東上もすごくすごく喜んでいるんだ、ということを。
 そして同時に、これの送り主である所のあのへらへらした営団の顔を思い浮かべた(武蔵野に対する形容詞は「ニヤニヤ」で有楽町に対するのは「へらへら」な越生だった。厳しい評価である。だがよくよく考えると越生が知る限りの東上のまわりの連中は、大体へらへらしているかにやにやしているかだ、と考えるたびに越生は思いを新たにしていて、多分その評価が変わることはそうそうないものと思われる)
「しゃぶしゃぶの鍋使うなんて久しぶりだねー」
「は? 使ったじゃねーか、ほうれん草しゃぶしゃぶしただろ?」
「…本来の用途じゃないよね…ごめんね、おれが甲斐性ないから…」
 しゅん、と途端にしおれた東上の腕を、慌てて越生は掴む。そして必死に言い募る。
「そ、そんなん、なにいってんだ! ほうれん草のおろぬきやわらかくてうめーじゃねーか! ブリもやったじゃねーか! あれもうまかった!」
「…でも、お肉じゃ、ないし…ブリ、あれ、養殖で冷凍だったし…」
「肉なんか、肉なんかなあ! オレが、いっぱいくわしてやるから! みてろよ、地下鉄にできてオレにできないことなんかないんだからな!」
 めちゃくちゃな理論だったが、東上にも越生の一所懸命さは伝わってきた。だから、くすりと笑って、こつん、とその小さな額に拳をぶつけた。
「もう、越生ってば。…大丈夫だよ、ライナーも! 走ったし、これからだって、きっといいことあるし、お肉もたまには買ってくるからね」
「だからあ、オレが買ってやるってば、東上はわっかんねえんだから」
「はいはい」
 くすくすと笑って、東上は越生を抱きしめた。
「なっ、…なんだよ…?」
 抱きしめられたことにどきりとしながらもごもごと尋ねた越生に、東上は言った。
「あのねえ、越生」
「…なんだよ」
「ありがとうね」
「…なにが」
 当然その理由を問うた越生だったけれど、東上は笑うばかりでそれには答えてくれなかった。




 神妙な顔をして神棚に桐箱を上げようとしている池袋が、帰宅した拝島が見た最初の光景だった。

 あれは多分日持ちするものじゃないと思う。なんか間違いなくそうだと思う。

 何かが拝島にそう囁いた。天啓だったかもしれない。
「…池袋、それ、なんだ…」
「なんだ、帰ったか拝島。メトロのやつが中元を贈ってきたのでな、会長にまず捧げている」
「…。中身、それ、なんだ?」
 拝島がそう確認したのは、ひいては何か予感を持ったのには、一応それなりに理由もあった。簡単に言うなら池袋には前科があるのだ。
 冬に歳暮で届いた蟹を、発泡スチロールのまま神棚に捧げようとした、という。
 あの時も榊が折れたり注連縄が生臭くなりかけたりと大騒動だった、唯一救いがあったとすれば、歳暮つまり年末近かったため、注連縄を替えるまで間もなかったことだろうか。ちなみに、榊はすぐに新しい枝を取ってきて替えた。
 だが池袋には特に反省とか感慨といったものはなくて、最後まで、会長にどのようにお出ししたら…と真剣にそちらを検討していたのは…なんというか、さすがとしか言いようがない。と、思うことにする拝島だった。
 そして、今回もまた。
「ああ。肉だな」
「……」
 拝島は無言で額を押さえて一度溜息をつくと、後は無言で近寄り、有無を言わさず桐箱を取り上げた。
「何をするか!」
 当然池袋は眉を吊り上げたが、拝島は切なげに眉を寄せて首を振った。
「池袋。今は何月だ」
「六月に決まっているだろう」
「そうだな…梅雨時だな。…もう一度聞くけどこれ、中身、生ものなんだよな」
「当たり前だろう。肉だといったではないか。まあまあだな、松坂だそうだ」 
 拝島は深呼吸したあと、池袋…、と噛みしめるように呼んだ。
「生物は冷蔵庫。食中毒でも出したらどうする気だ」
 その先は拝島も言わなかった。奇しくも最近、プ○ンス系列で食中毒を出してしまったばかりだ。あまり突っ込みたくもなかった。…話が長くなるから。
「…それは」
 池袋は盛大に眉間に皺を寄せていた。言う間を与えず、拝島は口を開いた。
「そんな不名誉、会長がいらしたらどう思われるか考えても見ろ」
 かっ、と池袋は片方の目を見開いた後、がくりと膝から崩れた。
「おお…私はなんということを…!」
 そこまでショック受けられてもなあ、と拝島はちょっと困ったが、なれているのでそこまででもなかった。
「…とりあえず冷蔵庫に入れよう」
 暫く様子を見守った後、拝島は、ぽん、と池袋の肩をたたいて言った。

「まつざかぎゅう」
 ほあ、と大きな目を瞬かせた西武有楽町に、今夜はしゃぶしゃぶだぞ、と答えたのは池袋で、しゃぶしゃぶ、と西武有楽町が繰り返す前に「え、すき焼きじゃないのか」と呟いたのは秩父だった。そして、「焼肉がいいのに」と言ったのは新宿。拝島は風呂に入っていた。その他軍団は仕事中だったり「どれでもいいけどなあ」と思っていたり色々だ。
「秩父…」
 池袋は聞き分けのない子供を見るような目で秩父を見た。秩父はといえば、ちょっとばかり興奮したように眉を跳ね上げ繰り返した。
「すき焼きがいい」
「なぜ」
「…甘いから」
「新宿は」
「オレおかずが甘いの苦手。酢豚とか。あと、がつんとしたのがいい」:
「すき焼きは卵につけるんだぞ! うまいじゃないか!」
「それ味付けと関係ないって言うか、それなら卵かけご飯でいいんじゃないか」
「そ、それは…!」
 う、と詰まった秩父と腕組みして追い詰めた新宿に、池袋は溜息をついたあと厳かに口を開いた。
「いい加減にしないか、お前たち。仲良くしゃぶしゃぶを食べればいいではないか」
 がつん、という池袋の発言にしばしふたりは黙り込んだが、すぐに我に返ると、「それは池袋の希望だろう!」「ほかは結局却下なのか!」と抵抗を試みた。試みたのだが…。
「会長は醤油味がお好きだ!」
「…は、」
「よってすき焼きは甘いから却下だし、焼肉は煙いから駄目だ。会長のお写真が真夏でもないのに曇ってしまうではないか!」
「しゃぶしゃぶは醤油で食べるのか?」
 醤油ってあうのか、と暗に突っ込んでみたところで、池袋に感銘など与えることは出来はしなかった。
「ポン酢だ。決まっているだろう」
「醤油味の話とどう関係するんだ」
「色が同じではないか」
「…それを言ったら割り下だって同じ色だ!」
「うるさい、甘いから駄目だ」
 …一向に埒があきそうにない会話だったが、池袋は強かった。
「今夜はしゃぶしゃぶだ! 意義のあるものは申し立てい!」
 ばっ、と片手をかっこよく構えた池袋が堂々とそんな宣言をしたら、もう残りのメンツはどうでもよくなってしまい、「…了解」とだけ返したのだった。

 まあ、いずれにせよ、西武有楽町が喜べば皆なんだかそれでいいかな、と思ってしまったりするのだけれど。子供の笑顔は偉大なのだ。
――勿論、会長の次に。




作品名:No Rail No Life 作家名:スサ