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No Rail No Life

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 時節柄お中元は多い。バブルの頃に比べれば減りはしたが、それでもなくなるということはなかった。同時にこちらも贈ってはいるわけだけれど。
「…肉、」
 京浜東北は贈答品のチェックをしながら眉根を寄せた。
 よりにもよって、生物、それも肉。こちとら宿舎での個人生活だ。一体こういったものは誰に帰属するのだと度々問題になるのだが、凡そ、送り主と関係がもっとも深い、と思われるものの手に渡る。
「…メトロ、」
 うーん、と少し考えて、京浜東北は総武宛にそれを振り分ける。
 他の可能性もないでもないが、一番に思い浮かんだのは、総武と乗り入れをしている強風に弱い地下鉄だった。接続まで範囲を広げれば他にも候補はいるわけだけれど、ぱっと思い浮かんだのはそれだけだったのだ。
 そうして、京浜東北は肉のことはすぐに忘れてしまった。

 ごんごん、とノックされて中央は「空いてるよ」とだけ答えた。なんとなく、ノックの仕方で誰だかわかってしまったので。
「なんだ、空いてんのか。鍵の意味ないじゃん」
 入ってきたのは、ちょっとくせのある髪をした黄色いやつで。中央は読んでいた本から顔を上げ、寝るときはかける、とだけ答えた。
「あっそ」
「それより、どうした? …その箱、なんだ?」
 中央の視線の先には桐箱があった。時期的に何となく何物かはわかる気がしたのだが、といって中身やなぜ総武がそれをもってここに来たのかまではわからなかった。
「冷蔵庫かしてー」
 総武は断りながらもう中央の部屋の冷蔵庫を開けていた。勝手知ったるというかなんというか。
 京浜東北あたりは、もう同じ部屋にすめばいいんじゃないの、そうしたら宿舎の部屋がひとつ空いていいんだけど、なんてたまに言ってくれるくらいに、彼らは頻繁に行き来をしていた。より正確を期すのであれば、総武が入り浸っている、というのが正しいのだろうけれど。
「そりゃ構わないけど…、お前、また冷蔵庫が酒とマヨネーズだけとかなんじゃないよな?」
 結局自分もまた立ち上がり、総武の斜め後ろに立って腕組みをする中央の顔は渋い。それを横目でちらりと見た後、ハズレー、と総武は言う。
「バターも入ってる」
「かわらないだろう…まったく…」
「いいじゃん、そんなこと。な、それよりさ、これ肉なんだぜ、和牛!」
「え?」
 さらっと流した総武は、中央に箱を示して得意げに笑った。
「東西がっていうか、メトロがさ。今年はこれだったらしい」
「これ?」
「に・く」
「は?」
「和牛だぜー和牛、どうしよっかなー、なにして食う? これ」
「…なにして、って…」
 それはつまり一緒に食べるということだろうかと恐る恐る総武をうかがった中央に、総武はさも当然という顔をしてこう告げた。
「だから、焼肉かー、すき焼きかー、しゃぶしゃぶか」
 一緒に食べるということは大前提なのだ、と総武の態度を見ればすぐにわかった。中央は口を押さえて一瞬俯く。
「中央? どーしたよ?」
 不思議そうに首を傾げた総武に、中央は「なんでもない」とどうにか答えると、ゆっくり顔を上げた。
「…すき焼きにするか」
「了解。んじゃね、中央は明日帰りに焼き豆腐としらたきと葱を買ってきて」
 買出しは自分なのか、と瞬きした中央に、総武は屈託なく笑った。
「だって、オレ肉提供するもん。後は鍋探して洗っとくからさ、他の食材は中央がよろしく。あ、卵もオレがね、農家からもらってくるからいいよ」
 色々無茶な理論だったが、中央は…、肩を竦めて「了解」と返したのだった。結局のところ。

「あれ、京浜東北、今年はメトロからなかったん?」
 総武が中央の部屋を訪ねていた頃。タッチの差でお中元振り分けをしていた京浜東北のところにやってきたのは武蔵野だった。そういえばこいつも接続とかあるんだっけ、と思いながらも、京浜東北は余計なことは口にしなかった。
「あったよ」
「でも、ここにない」
「ああ。総武に渡した。肉だったから」
「肉?」
「うん、高級和牛1キロ。だったかな。1キロじゃ少ないよね、うちで食べるには。みんなでバーベキューって柄でもなし、渡した」
「なんだー去年はオレらで分けたじゃんかー」
「そんなの知らないよ。総武より遅く来たのをうらみなよ。僕は悪くないもの」
 しれっとして言い放った京浜東北に、そんなんじゃねぇけどさー、と武蔵野は口を尖らせた。
「じゃあなにさ」
「いやー、肉だったらさ、こう、焼いてもよかったかな、みたいな」
「…誰かのところにもっていって、かい?」
 きらりと京浜東北の眼鏡が光った。そしてその口元はまったく笑っていなかった。たらり、と背中を汗が伝う錯覚を抱きながら、武蔵野が、まっさかそんな横流ししねーよ、といえば、そう、ならいいけど、今はいろいろうるさいからね、と京浜東北もあっさりしたものだった。





 きゃあ、と可愛らしい歓声が上がって、日光は台所で一瞬だけ顔を上げた。
 いささき、いささき! となにやら大師は興奮しているようだが、…しかし理由を特に考える前に、日光! とこちらも明らかに興奮した様子で伊勢崎がどすどすと足音を立てて駆け込んできた。
 小脇に大師を抱え、桐箱を両手で持って。
「日光日光日光!」
「…静かに走れ、宿舎が壊れる」
「大変だよ日光!」
「だから…」
「にっこー! たいへんなのお肉がいささきがたべたいのだいしも!」
「……」
 日光は額を押さえて暫し黙り込んだ。教育の難しさについて彼は今ひしひしと感じていた。
「…印鑑は押してきたか?」
 とりあえず、確認から始めてみた。
 そもそも宅急便を受け取りに行かせたのが最初だったのだ。

「…日比谷か」
 送り主を確認して、日光は特に感慨もない様子でひとことそう呟いた。後は極めて実務的に、包装を引っぺがし、分別し、中身を冷蔵庫へ収納をし始める。その脇で、今は大人しくしている伊勢崎が様子を見ていた。
「なんで日比谷だと思うんだよ」
「なんでって…メトロになってんじゃねえか」
 なら日比谷だろ、とあっさり片付けて振り向きもしない日光に、伊勢崎は微妙にむっと眉をしかめた。そうして食い下がる。
「でも日比谷だけがメトロじゃないじゃないか」
「そりゃそうだな。じゃあ、伊勢崎は半蔵門が日比谷よりしっかりしててちゃんとやれると思ってるわけだな」
「それは…ないな…」
 伊勢崎は難しい顔で肯定した。認めるしかない。日比谷の肩をもつわけではないけれど、日比谷と半蔵門を比べて後者がしっかりしているとはとてもでないけれど言えなかった。
「だろ。じゃあ日比谷だろ。ま、やれ、っつってんのは銀座かもしれないけどな」
 ちっ、これ賞味期限切れてんじゃねーか、ありえねえ、こんな隙間に隠しやがって野田か?、と肉を入れるためのスペースを作りながら日光はひとりごちている。どうも何か、自分では買った覚えのない類のものが入っていたらしい。野田と名指しでいうあたり、前に同じ事があったか、野田でなければ買わないようなものだったかのどちらかなのだろう。
「伊勢崎」
 どうにか肉を収めたところ日光はようやく振り向いた。
 その目を見返して、なに、と伊勢崎は首を傾げた。日光は少しだけ笑った。恐らくは、無意識の表情だった。
作品名:No Rail No Life 作家名:スサ