二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

それは刹那にも似た

INDEX|2ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

「いいか、滝夜叉丸。ここは忍術学園だ。忍たま同士の切磋琢磨は大事だが、殺しあうことは断じて許さん。お前も一年間で色々と勉強しただろう?」
 伝蔵の声と溜息が、思考に沈む長次の耳に届く。
「自分ひとりがよければいいのではない。お前も、そして彼らも、立派な忍びとなるためにここで学んでいるんだ。その芽を勝手に摘むようなことをしてはならんのだ。わかったか?」
 二年生に教えるにしては、小難しいことを言っている。ただ、視線に合わせるように膝を折った伝蔵の言葉は、無表情に聞く子供―滝夜叉丸には伝わったのかもしれない。
「わかりました」
 淡々とした声で、彼は答える。それに満足したらしい伝蔵は、ようやく怒気を払う。それに安堵の息が漏れて、知らずこちらも緊張していたことに気づかされる。
「しかしなぁ……」
 振り返った伝蔵の視線が地面を撫でる。その視線を追えば、汚れた旗が転がっている。それを拾い上げた手は、子供の頭を今度は優しく撫でる。
「方法は関心せんが、年長者相手によくやったな」
 それに、子供の顔に笑みが浮かぶ。
 照れたように浮かべる、はにかんだ笑顔。汚れて折れた旗をまるで宝物のように抱いて、はじめて見せる歳相応な表情。
 だが、愛らしいはずのそれが、酷く絶望的なものに見えるのはなぜだ。
 ―やはりこの子供は、傷つけることの本当の意味を知らない。
 でなければ、どうして同じ忍たまを嬲るようなことができる? これはまだ無邪気な子供なのだ。
 そう己に言い聞かせ、ショックが抜けずに立ち上がれない後輩に手を貸す。背後の物音に気づいた伝蔵も、滝夜叉丸から離れると、保護するように手を差し伸べる。
「森の外へは私が連れて行こう。お前たちは武道大会中だ。すぐに誰も仕掛けてこないだろうが、がんばりなさい」
 これだけ派手に騒いでいれば、近くに潜む忍たまたちも長次たちに気づいたはず。わざわざ伝蔵が「すぐに誰も仕掛けてこないだろうが」などと周囲に釘を刺したのは、間違いなく後輩を助けに飛び出した長次への気遣いだろう。
 つまりは、すぐに手を出すな。暗に秘められた言葉に気づかないほど、愚かではない。ありがとうございますと軽く頭を下げるが、当の伝蔵はそ知らぬ顔だ。中立を規する審査員なのだから当たり前だろう。
「さあ、後は私に任せて行っていいぞ。……滝夜叉丸、戦輪をしまえ」
 しかし、深い深い溜息がこだまする。
 はっきり言わなければ通じない子供が目の前にいたらしい。次のターゲットを目の前の男と決めた滝夜叉丸の、あの冷めた目が長次を捕らえる。
 力量の差など関係ない、そこにあるのは感情など排除した、ただ命じられたことを忠実に遂行しようとする忍そのもの。臓腑が、またいやに冷えていく。
 ―この子供は、違う。傷つけることに慣れすぎている。
 忍たまの中でも戦忍を目指す者ならば、いつかは通る道だろう。だが、嫌悪で吐き気すら覚える。
 思慮深さで通している長次だが、その深い理由など考えることもせず、伝蔵に一礼して地面を蹴る。

 跳躍し一度だけ振り返れば、あの冷めた瞳は寸部の狂いもなく長次だけを見ていた。

* * *

「ようやく最近、滝夜叉丸も私に口ごたえするようになって来たよ」
 ドロドロに汚れた藍色の忍服は、すでに井戸で洗い流してきたのだろう。未だ足元にしずくを落とす袴を脱げば、板の間にじわりとシミが広がる。
 上着はすでに脱いでいるから、小平太は褌一丁で胡坐をかく。その頭に手ぬぐいを投げてやれば、短い感謝の言葉とともに動く手によって、飛沫が飛んでくる。それに溜息を零すのは、五年目も付き合っていれば日常茶飯事だ。
「今まではなんでも言うことを聞くかわいいお人形だったんだが、後輩が入ると違うな。真っ赤になって、私に文句を言ってきたよ」
 こちらの迷惑などお構いなしに、小平太は楽しげに笑う。
 こんな風に、いつも友人は今日の出来事を長次に語る。長次がいなければ、文次郎であったり伊作であったり、とにかく誰かに報告している。おかげで同級生は、なぜか体育委員会の内部に詳しい。
 それはともかく、体育委員会は去年も一年生が入ったはずだ。いいだろうと煩いほど自慢していたのをよく覚えている。三年前、長次にだけ委員会の後輩が出来たことをずっと根に持っていたらしい。
 だから、二年前に小平太がはじめて面倒を任せられたふたつ下の後輩、滝夜叉丸にとってみればふたり目の後輩のはずだ。まあ、それは小平太にしてみれば些細なことなのだろう。
「……あまり、いじめるな」
 だからそこには触れずに、釘を刺す。
 小平太はいい意味でも悪い意味でも、素直すぎる。思ったことは歯に衣着せずに口にするし、熟慮よりも行動という文字が服を着て歩いているようなものだ。
 それゆえ、滝夜叉丸を日々言動や行動で振り回してきた。二年前は何度、後輩を保健室送りにしてきただろうか。伊作が激怒して、部屋で三度は大喧嘩をしたのを覚えている。実際、あのころは可愛がるどころか、かわいくないと随分不満を持って扱っていたはずだ。
 その口から滝夜叉丸に対する不満が減ったのが一年前。笑うようになったとか、警戒が解けただとか、一年生と一緒に迷子になっただとか、そんな話ばかりを聞いてきた。
 そして今年は、これか。
 歴代の体育委員長たちが、小平太のともすれば協調性の欠ける性格の矯正を狙い、後輩の世話については口出しを一切していないのは以前聞いたことがある。振り回されている滝夜叉丸にしてはたまったものではないだろうが、こうしてみれば滝夜叉丸の矯正のほうが本当の狙いなのかもしれない。
「いじめてないさ。多少、意地悪はしているけどな」
 その推測を証明するように、小平太は確信犯の笑みを浮かべて手ぬぐいを首にかける。
 この級友はあまりものを考えていない風にみえるが、これでかなり鋭い。理屈など全部抜きにして、直線的に真実にたどり着く。長次たちは何度、それを目の当たりにしてきただろうか。
「滝夜叉丸には、これぐらいしたほうがいいさ。長次だってそう思うだろう?」
 だから小平太がそう思うのならば、そうなのだろう。だが、同意する気はなくて軽く首を横に振る。
 一年前の武道大会。優勝者は二年生の滝夜叉丸だった。
 高学年が互いの旗を取り合うことに集中して、案外、低学年のほうが旗を多く集めていることはよくあること。だが、全学年が集まった中で二年生が優勝までするのは珍しいことだという。上級生たちの間では、参加者たちが手を抜いたのだと笑い話になっている。
 だが、決してそんなことはない。
 あの冷たい目を思い出すたびに、薄ら寒いものを覚える。あの子供ならば高学年相手でも迷うことなく、首を狙って戦輪を放つだろう。それは技量を試すのではなく、一撃必殺のつもりで。
 小平太が人形みたいだと比喩した一面。それが一年前に長次が見た滝夜叉丸なのだろう。だが、彼が語るかわいい後輩の図など想像もできない。
 滝夜叉丸そのものは図書室に本を借りに来たりすることもあるし、授業の合間に見かけることもある。しかし小平太の語る滝夜叉丸は本の中の登場人物のように思えて、実在する彼と結びついたためしがないだけ。
作品名:それは刹那にも似た 作家名:架白ぐら