口の悪いカレ
と、言われてもな…。
俺は別に食べるものにこだわりがあるわけじゃないし、そもそもここの家の冷蔵庫に何が入ってるかも知れない以上、リクエストなんてし辛いんだが。
だからと俺は、
「なんでもいいぞ」
と言ったのだが、そんな返事は古泉の気にいるものではなかったらしい。
「あーあ」
嘆かわしげに呟いたかと思うと、
「その返事、一番嫌なんだよな。すっげぇやる気が失せる。せっかく聞いてるんだから、いっそめんどくさい料理でも言やいいのにさ」
と拗ねた口調で言われちまった。
俺は苦笑して、
「そりゃ悪かったな。これでも気を遣ったつもりだったんだが」
「別に今更気を遣う必要なんてないだろ。俺とあんたの関係なんだし」
「かもな。…けど、疲れてるんだろ? それなのに、いいのか?」
「いいに決まってんだろ。あんたのためなんだから」
そう言ってにこにこと笑う古泉の顔は、外でのそれとほとんど同じに見え、あの笑顔は割とデフォルトなんだよな、と思った。
実際、古泉はよく笑う。
テレビが面白かったといっては馬鹿笑いし、ちょっと気の利いたギャグを耳にすれば吹き出し、時には何かを思い出してにやにやしていたりするくらいだ。
だから、外での笑顔も大して苦じゃないんだろうな。
そこには元々の楽天的な性格も影響してるのかもしれないが。
「んで、何が食いたい?」
嬉しそうな顔でそう聞いてきた古泉に、俺はしばらく考え込んだ後、
「じゃあ、ポテトサラダとサンドイッチのうまいのが食いたい」
と答えると、
「うまいの、ってのは余計。俺の料理でまずいのなんて、今まで一度もなかっただろ?」
大した自信だが、実際その通りなので文句は言えない。
「そんじゃ、買出しにでも行くか」
それさえ楽しいことであるかのように笑って、古泉は着替えを探しにクローゼットに向かった。
そうして、しゃれたシャツとパンツ、それから薄手のジャケットを着た古泉は、正直言って、さっきまでダサい漢字Tシャツ――何を考えてるんだか、黒地に白で「唐揚」と大書されていた――と油や薄力粉で汚れっぱなしのジャージを着たまま、だらだらとパソコンに向かっていた男には見えん。
「スーパーに行くだけにしては、やりすぎじゃないか?」
やっかみ半分でそう言うと、古泉は外出用の笑顔で、
「僕もそう思いますけどね。これが機関の方針ですから」