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月曲

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「んぁ……っはあ、はっ……」

大きく上下する胸元に臨也は手を置いて、唾液を舌で掬う。ぴくりと反応してしまう自分を認めたく無くて勢いよく臨也を突き飛ばした。

「痛いなあ」
「って、めえ、ふざけんな。うぜえ」
「欲しがった癖に、素直じゃないね」
「うるせえ! てめえなんか、」
「俺なんか?」

ぐい、と両手を掴まれて引き倒される。臨也は笑っていたが、奥に渦巻いているのは、喜びと怒り。どちらを引き出すかは俺次第。

「て、めえなん、かっ……」

言いかけて止まる。きっとさっき、勢いで言った方が楽だったのかもしれないが、もしそう言ったら確実に眼の前の男は怒り狂うだろう。一週間くらいは無視し続けられるかもしれない。饒舌な臨也の無言は罵られるよりもずっと俺の心に来る。言葉に詰まる俺に臨也は言葉を引き継いだ。

「大好き。だろう?」

文法としては可笑しいが、そう言わされるに違いない。くそ、なけなしの俺のプライドががた崩れだ。

「そう、思うなら、手癖の悪い事するんじゃねえ」
「ん?」
「……何の話、してたんだよ」

ぽつりと言葉を落とす。白を切る臨也に向かって眉を寄せながら睨む。顔に熱を持っているのは気のせいだ。

「だから、三ヶ島と何話してたんだって聞いてんだよ!」
「ん? 沙樹ちゃんの彼氏の話」
「……はあ?」

けろっとしたこいつを殴り飛ばしたかったが、未だ掴まれた両手がそれを赦さない。
どういう事かと視線で促すと、臨也はにこりと微笑む。

「ちょっと興味のある男の子が居てね、その子の懐に潜り込む為に沙樹を送ったんだよ。ほら、年頃の子だから晴れてカレカノになった訳なんだけど。沙樹が上手く誘導出来ればその内俺を頼ってくるはずだ」
「興味あるって、誰だよ」
「黄巾賊って知ってる?」
「!」

今日の昼に知ったばかりの存在が臨也から語られて眼を見開く。その反応に一人で頷くと、続きを語り始める。

「黄巾賊って中学生のグループなんだけど、リーダーの子がこれまた、稀有なくらい面白い子でねえ。中学生の割に成熟してるんだ。手駒にしたいから沙樹を使ったんだ。判った?」
「……なんで、中坊なんかそこら中に居るだろ」
「駄目なんだなあ、そこらの中学生じゃないから、俺が興味持ったんだよ」
「……あっそ」

臨也が俺以外に関心を示すって、俺にとっては全く持って面白くない。早く飽きて捨ててくれれば良いのに。馬鹿正直にその感情を表に出した俺だが、性悪な臨也は携帯を出すと、眼の前に突き付ける。

「この子だよ」
「あ?」

近づけられた画面にピントを合わせる。眼を細めると、そこには髪を茶色に染めた今時の少年が映っていた。この町になら何処にでもいそうな平凡な少年。だが、その細い首には黄色いバンダナが巻かれている。隣には半分しか映っていないが、懐かしい三ヶ島沙樹が映っている。カメラ目線じゃないから隠し撮りしたんだろうが、俺はその写真を見て嫌悪感しか沸いて来なかった。携帯を破壊しなかったのは、臨也のものだという理性が働いたのと、その少年に見覚えがあったからだ。

「……見た事がある」
「へえ、まあ行動範囲が広い子だから、そう珍しくはないね。サイモンとかとも知り合いだし」
「あれだ、えっと……『き』から始まる気がする」
「正解。紀田、正臣君だよ」

適当に相槌を打つ。別に今日俺に襲いかかった奴らの頭が判ったからと言って何の感慨も浮かばない。最近臨也がよく外に出ているのはひょっとしてこいつと接触してるのかなと考えると腹が立ってくるが、予想の範囲なので口にも顔にも出さないように努める。いい加減窮屈なこの体勢をどうにかして欲しいと足で臨也の腰を叩いた。
それを良いように解釈したこいつはまるでチェシャ猫みたいに意地悪く笑う。

「なあに? シたい?」
「っふっざけんな! 退けって意味だ!」
「前回って足が痛いって俺に泣きついたシズちゃんが寂しがって強請った時だよね? 可愛かったなあ、何回も何回も臨也臨也、ってさ」

つい先日の痴態が鮮明に思い出されかっと顔が赤くなる。忍び込んできた臨也の手に身体が魚みたいに跳ね、剥き出しの鎖骨に吸い付く臨也に向かって声を上げる。色を含んだそれは自分でも判るくらい欲しがっている。

「やめろっ、俺はそんな気分じゃ、ねえ!」
「すぐそんな気分になるよ」
「ならねえって! んっ、馬鹿、残すなっ……」
「んー? 好きでしょ? キスマーク」
「着替えン時に見られたらどうすんだよ!」

今まで自分の身体を見せる相手なんか臨也以外誰も居なかったから許容していた赤い華。だが先日に肌を重ねた翌日の体育で、体操着に着替える際に痕が残っているのを忘れて上半身裸になってしまい、後ろの座席の奴にぎょっとされた。背中を埋める色濃い情事の痕に、初心な男子は真っ赤になり、気付いた俺も死にそうなくらい恥ずかしくなった。そいつが噂を広めない、生真面目で大人しいタイプだったから良かったものの、それ以来擦れ違う度に気まずい思いをしている。

「良いじゃん、見せつけてよ。俺はもう予約済みですって」
「絶対嫌だ、クソ馬鹿っ、おい!」

首につけようとする臨也を何とか引き離す。だがこいつの嗜虐心を満たさせる為には俺もある程度妥協しないといけない。

「み、見えねえとこに付けろっ」

見られるのは嫌だが、付けられる事は好きだ。滑舌の悪い俺の言葉ににんまりした臨也は鼻歌を歌いながら俺の腹辺りに唇を触れさせる。機嫌良く、唾液の音を漏らしながら華を咲かせる臨也。諦めてされるがままにしていると、唐突に顔を上げてぐっと近づける。
肉欲を迸らせた眼が俺に突き付けられた。

「そういう気分にしてあげる」

あ、これはもう言っても無理だ。
元々欲情した臨也を俺の意思で止められた事なんか過去一度も無い。俺の化け物染みた怪力は臨也に対しては強力な抑制力を施行する。お陰で行為の最中に臨也の肩や腕に思い切り縋っても折れる事は無い。それはそれで嬉しいけど、抵抗したい時には恨めしく感じる。

「っ、……一回、だけ、だぞ」

顔を真っ赤にしながら思い切り眼を瞑る。大人しく抱かれる気になった俺に臨也は機嫌を良くし口付けようと顔を近づける。

作品名:月曲 作家名:青永秋