病的愛的恋愛
帝人君といる時間が増えた、と自分でも感じていた。
あの子がどう考えているかなんて知らないけど。
よく他人からは「お前は酷い奴だ」とか言われたりするし、その自覚もあるけれど、あの子は俺のことを良い人呼ばわりする。
ま、目立って傷つけたこともないし、騙したりとか(気付かれない程度にはしてるけど)してないから、結局あの子の俺に対する「良い人」評価は大して変化がない。
傍から見れば十分騙されて体売らされてるようなものだと思うんだけど(俺以外のやつには触らせないけど、さ)
気絶した帝人君を洗ってやるのは俺のひそかな趣味だ。
人間の感情を見るのが好きな俺にしては珍しく、意識のない人間に触れるのが楽しいと思う。
人形のように自由にあの子の体を好きにする。足を持ち上げて、たまに新しい噛み痕を残して、腕を軽く縛ってみたり、寝てる間にイケるものなのか挑戦してみたり。
そしてまた人形のように綺麗に身なりを整えてやるんだ。
大きなベッドに埋もれて眠る帝人君は愛らしいと思う。
「ショタコンのやつなら一発じゃない?うちの創始者様は大したものだよねぇ」
頬をつついてやると、ぷにぷにとした感触。
化粧もない、香水の甘ったるい匂いもしない、男子高校生にしては珍しくせっけんの匂いがするような子だ。
あまりにも平和そうに安穏とした表情で寝ているものだから、俺も抱き枕のように帝人君を抱きしめて眠るのが癖になってしまった。
帝人君と一緒に眠れば、なんだか幸せな夢でも見れそうな気がしたんだ。
しかも帝人君には嬉しいことに主婦機能がついていた。
そんなに自炊なんかしていなかっただろうに、俺が「あれ食べたい食べたい作って」と強請れば作ってくれるようになった。
帝人君の手料理は好きだった。
ちょっと端の焦げた卵焼きや(慣れてなくて悪かったですねと拗ねてた)、やたらとわかめの多い味噌汁とか(わかめ戻したらこうなるんだ・・と落ち込んでた)、餃子焼いて油跳ねたりとか(火傷しそうになってたから下がらせたけど)そういう帝人君らしい料理が楽しかった。
味はいまいちの時もあったけど、それも一つの楽しみだった。
俺はこんなに楽しくて、情報屋になってから初めてぐらいの平和な日々だったっていうのに、なんでこうなったんだろう?
+
「折原さんとこうやって一緒に食事が出来るなんていつ以来かしら?」
「さぁ・・・それでもあなたとこうしていられる今の喜びで、会えなかった悲しみなんてすぐに忘れてしまいそうですけれどね」
チンとグラスがぶつかり合う。
それなりに格調高く、それなりの値段がするレストランだ。
ワイングラスを片手に微笑む女は俺が持っている情報源の一つ。
俺の仕事にそれなりに役立つ存在なのだから媚を売っておいて損はない。だけど。
(俺はハンバーグ食べたかったのにさ・・・)
そりゃこのレストランの食事が悪いわけではない、俺が選んだんだし当然だ。
だけどどんな高い食材を使っていようが、珍しい料理があろうが、あの子が不器用な手で必死になって作った料理のほうがよっぽど食べ応えがある。
(嫌み言ったら拗ねて、鋭いツッコミしてきて、かと思ったら後で落ち込んでさ。可愛いったらないよね)
勝手にベラベラと喋る女に相槌だけは打っておく。
ペンネをフォークで串刺しにしながら、俺は(明日はパスタを作らせよう)と思った。
さっき買い物した時にはパスタなんて買わなかったし、家にストックがあるとも思えないから、買って帰らないとダメだな。
(きっと帝人君のことだからミートソースしか無理だろうし・・・トマトピューレ?必要だよね)
愛想笑いを浮かべて大して美味しいとも感じないパスタを食べ終える。
高い割に人を楽しませれないレストランなんて潰れればいいんじゃない、なんて思いながら料金を払っていると、左腕にからみつく女の手。
やたらと派手な爪が俺の手に触れて、胸を強調するように腕に押し付けられる。
「さ、行きましょう?」
「・・・えぇ、もちろん」
俺が自分の思い通りになる、という自信にあふれた笑みだった。
その辺の男と同じように扱えると思われるのも不愉快だし、真っ赤な口紅も決して好ましいものではない。
(けどまぁ貴重な情報源なことには変わりないし・・・ま、いいか)
抱いてやるぐらいなら許容範囲だ。
そう思って、俺も笑みを返してやった。