病的愛的恋愛
白く筋張った手が僕へ伸びる。
金縛りにあったように僕の体は動かない、動けない。
冷たいまるで温度を感じない臨也さんの手が僕の頬に当てられる。
その感触に、僕は目を見張った。
(この人・・・こんなに薄い体だった?手だって、全然感触が違う)
たった数日では僕も臨也さんの姿を、感触を忘れることなんてできない。
だから気付いた。
(臨也さん、ものすごく痩せた・・?というか、やつれてない?顔色だってこんなに悪くて、肌だってボロボロだ)
今までの臨也さんからはありえない姿だった。
良く見れば髪だってバサバサになってしまっている。
いつだってスマートに余裕を持って笑って、泰然とした姿しか見たことのない僕からすれば、完全にありえない姿だった。
頬に当てられた手をそっと握り返すと、臨也さんの目がひくりと揺れた。
「もうやだ、なんで俺こんなことになってるの。どうして帝人君がいないだけでこんなことならなきゃいけないの」
「・・・寝て、ないんですか?」
「寝れるわけないじゃん、抱き枕ないのに」
ボロリと涙が一粒、臨也さんの赤い目からこぼれおちた。
すると堰をきったように、ボロボロと次々溢れては血色の悪い頬を伝って流れおちる。
「最悪だ。もう最悪だよ。眠いのに、寝れないし、ご飯ないし、頭回んないしお腹すいたし」
「だ、誰か、女の人にやってもらったら、いいじゃないですか」
僕じゃなくても、と呟いたら、馬鹿じゃないのと返された。
むかついて握ったままの手をぎゅうっと力を入れて握ってやれば、痛がりもせず、逆になぜか嬉しそうにボロボロ泣いたまま笑われてしまった。
思わず毒気が抜かれて肩の力を抜いてしまう。
「女、とか。やったけど、やってみたけど全然寝れないし」
「・・・やってはみたんですね」
「うん。勃たないけど」
「はっ!?」
何が嬉しいのかにこにこしたまま話す臨也さんの顔を凝視する。
(勃たない?勃たないって!?あの臨也さんが!?)
そんな馬鹿なと、聞き間違いかと思って、もう一回「本当ですか?」と聞いてみれば、ものすごく素直に「うん」と頷かれてしまう。
「ありえない・・・」
思わず漏れた僕の声に、そうなんだよと臨也さんがまた素直に頷いた。
「ありえないよね。でも駄目なんだよ、体細い子とか、黒髪の短い子とか、良く似た顔の子とか連れ込んでみたけど、全然駄目でさ。勃たないし、帝人君って呼んでいいって聞いたらなんか平手で殴られたし」
「それは・・駄目だと思いますよ」
「なんで?帝人君の代わりに家に呼んだんだから、帝人君って呼んでもいいでしょ」
「・・・・」
開いた口がふさがらなかった。
なんていうか、臨也さんは本当に臨也さんで、本当に
(どうしようもない人だこの人・・・!!)
これで大人だなんて世の中間違ってると思う。
未だに流れ続ける涙で頬を濡らして、そのまま僕の肩に顔を埋める。
じわりじわりとしみこむ涙が冷たかったけれど、臨也さんの体は反対にとても熱かった。
ポンポンと背中を叩いてやると、嗚咽が酷くなった。
「帝人君、いないしっ、寝れないし、お腹すいた・・し、肋骨痛いし、なんか体だるいし、もっ、やだ・・・」
「・・・肋骨?」
この流れでそれはおかしくないか?と思って問い返せば、「ここ」と言っていつものVネックのシャツをめくり上げる。
おざなりに巻かれていた包帯が解けて、赤黒く変色している肌が見えた。
「な・・・っ!?どうしたんですかこれ!?」
「し、ずちゃん、に、やられた・・痛いんだけど、むかつく、しね」
「新羅さんのところ行ったんですか!?」
「行ったけど、あいつ、俺が帝人君のこと好きとか、からかう、から、飛び出して、走って、そしたら吐きそうになるし、なのに帝人君ハンバーグ、今すぐ食べるなんて、俺、無理、だし。出てっちゃうし、なんで?」
「・・・は?」
そろそろ僕の頭も限界を迎えそうだった。
だって臨也さんは何て言った?ハンバーグ?