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病的愛的恋愛

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「お、お邪魔します・・・」
「いらっしゃい。まぁゆっくりしていってよ」

その子は俺以外の人間が見たらきっと可哀そうだと思うだろうぐらいには顔を真っ赤にして小さく震えていた。

(面白いな)

だけど俺は残念ながら可哀そうなんて感情は浮かばない。
だってそうだろう?これは俺の趣味なんだから。
自分の趣味を果たそうとしているときに、なぜその対象を憐れまないといけないのか。

その子はネットで知り合った子だった。
哀れなことに、そう、哀れなことに!この少女はいじめにあっているのだそうだ。
何をした覚えもないのに靴や教科書を隠される。酷い時には教室に鍵をかけて閉じ込められる。
徹底的な無視と、教師や親の腫れ物に触るような視線、態度――それに疲れたと言う。

(馬鹿馬鹿しいことだよね)

俺はそんな目にあったことはないし、別にしたいと思ったこともない。
ま、シズちゃん相手で、それがシズちゃんにとってダメージになるようなことだったならやってもよかったけど、そういう傷つき方をするやつでもなかったから、結局俺は『そういういじめ』に手を染めたことはない。
やったところで大した反応が見れるわけでもないし、俺が見たい人間の感情はもっと激しく、もっと大きく、喜びをそしてそこから転落する絶望を、そういった表情が見たいんだ。
だけどこの少女にとってはそんないじめがまるで世界の終わりかのように感じるらしい。
そして、その世界の終りの中で、たって一人手を差し伸べてくれたのが、俺。

(まぁ、そう振る舞っただけだけどさ)

でもそれでこの子が簡単に俺に落ちるのはわかっていた。
優しい言葉、優しい笑顔、優しい態度、簡単にだまされる。


(そういった意味では、未だに警戒心を失くさない帝人君のほうがよっぽど手ごたえがある)


少女をソファに座らせ、紅茶を淹れてやりながらも俺が思うのはそのくらいのことだ。
ついさっきまで抱きしめていたあの少年、彼の冷たい青い目を思い出すと笑いだしそうになる。
あの目が絶対的なまでに俺を信じる時はいつなんだろう。
あの唇が俺に心からの愛を囁く時は?
あの手が自分から俺の背に回す時は?
あの子の満面の笑みはいったいいつ見れるんだろう?
そう思うと柄にもなくドキドキした。

(野生の猫を手なずけるのって、こんな感じなのかな)

だとすればペットを飼うのも楽しいかもしれない。
少女の隣に座って、そっと肩を抱いてやる。
ビクリと反応するそれは少しだけ面白かった。

「あ、な、奈倉さんって、こんな大きいマンションに住んでるんですね」

恥ずかしさにこちらを見ることもできず、ひたすらに紅茶のカップを握りしめてテーブルを一心に見つめている。
その黒髪に少しだけ指を絡めると、少しだけ短めのそれはあっさりと指の間をすり抜けた。

(あぁ、良い感触)

ふっ、と笑って「別に大きくなんてないよ」と返してやると、すごいですと小さな声で少女が呟く。
髪をいじる俺の手が気になるのか、少しだけ視線がテーブルから外れる。
ふと露わになった耳が気になった。

「・・君、ピアスしてるんだ?」
「え、あ、昔・・・その、友達に誘われて、一緒に付けようって・・・」
「じゃ、今は穴が開いてるだけ?」
「そうです・・・ね・・・」

そのお友達とやらは、もう彼女のお友達ではなくなっているのだろう。
寂しげに視線を落とす少女の、そのピアス穴が俺はなんだか気に入らなかった。
友達に誘われようが、いまどきの高校生がピアスを開けようが、どうでもいいことだけど、

(こんな似合わないもの、誘われたからって簡単に開けるから、都合のいいやつって思われるんだよ)

気に入らないから、そこに噛みついてやる。
すると「ひぁっ」と甲高い悲鳴が少女の口から上がった。
同時にガシャンとカップが床に砕け落ちる。
ごめんなさい、と言おうとしたのだろう開けた口を俺のそれでふさいでやる。
目は閉じないで合わせたままにしてやると、少女は次第に目を潤ませてゆっくりと閉じた。
薄めだけれどしっかりと施された化粧が少女のまつ毛をマスカラで彩っていた。


(やっぱり、気に入らない)


ソファに押し倒す前に、ピアス穴は埋めれないんだし、とりあえず化粧だけでも落とさせようと思いながら、俺はその子の舌に軽く噛みついてやった。

作品名:病的愛的恋愛 作家名:ジグ