病的愛的恋愛
「ん・・っ、ちょ、なんですか!?」
「俺の前でため息なんかつくから、お仕置き・・・そういえば帝人君ってさ、ピアス開けてないよね」
「は?あっ、んと、とりあえず、耳から離れてください!」
んー、とはむはむと噛まれる臨也さんの顔を無理やり引き離す。
噛まれた耳に手を当てると、確かに僕の耳たぶにはピアスの穴なんて存在しない。
大体、僕にはピアスを開けるという発想すら元々生まれない。
「開けてませんけど・・・それが何か?」
「別に。ま、開いてないほうが俺は好みだけど」
「・・・・別にそんなこと聞いてませんけど」
「俺は開けてないほうが好みなんだけどっ」
「大事じゃないので2回も言わなくて結構です!」
好み、と言われてしまったせいで、赤くなってしまった僕の頬を目ざとく見つけた臨也さんが、いつものにやにやした笑みを浮かべてからかってくる。
(本当に冗談じゃない!)
やっぱりむかついたので、今日の昼はカップヌードルでも出してやろうと思った。
+
「帝人くーん、俺お仕事あるんだけどー?」
「あなたがハンバーグがいいってダダコネるからでしょう!?おとなしくカップヌードル食べてればよかったのに・・・」
「俺ジャンク嫌い」
「じゃあなんで家にカップ麺があったんです?」
「さぁ?誰かが買ってきたんじゃないの?知らないし、興味ないよ」
本当にカップヌードルを出したら、とてもいい笑顔でシンクに流されてしまった。
(食べ物を無駄にして!これだから金持ちは・・・)
と偏見に基づいた僕の思考もあっさり無視して、臨也さんは地団太を踏んでまで「ハンバーグじゃないとヤダ!ハンバーグ作るまで帝人君は家に帰しません!」とのたまいやがった。
むかつくことこの上ないけれど、逆に心のどこかが喜んでいたりもする。
(臨也さんと、今日も一緒にいられる・・・)
たとえそれが僕の手料理でなくても、ただハンバーグが食べたいだけだったとしても、臨也さんならケータリングでも出来るだろうし、外に食べに行くことだって、他の女の人に作らせることだってできるのに、僕にハンバーグを作らせようとするところが僕が結局は言うことを聞いてしまう理由だ。
まるで自分が求められているような気にさせられてしまう。
(本当に手慣れた人だよなぁ)
臨也さんは期待させるのが上手いのだ。
だからネットの子たちも騙されるんだろうし、自分が特別なんだと思いこんでしまう。
僕はそうならないように、と自分を戒めているけれど、僕が臨也さんの特別になんてなりようがないと、あの付き合う理由になったログを思い出しては、たまにホールですれ違う女性たちを見ては、考える。
ふんふんと楽しそうに鼻歌を歌いながら、僕の少し前を歩く臨也さんはなんだかご機嫌だ。
まぁ僕をここまで自分の思い通りに振り回しているのだから、これで憂鬱な顔なんてしていたらボディブローぐらいはしてやりたくなる。
僕が手料理を作る(作らされる)ようになってから、臨也さんは庶民のスーパーがお気に入りだ。
2人で肉はこれがいいだの、野菜を食えだの、おやつは1袋までです!と言ったり、まるで・・・そう、まるで幸せな恋人同士のやりとりのようだった。
(本当に、酷い人だ・・・)
決して与えられないと思って、心に閉じ込めているものの一端に、これほど軽く触れさせる。
届きたい――だけど届かない。
先を歩く臨也さんの腕すらつかめない、人1人分はなれたこの距離が、僕と臨也さんの決して埋まらない距離だった。