【 「 MW 」 】
彼を止めたいという想い、彼と一緒に居たいという想い、美香や子供たちを助けたいという想い、様々な想いが交錯して混じり合う。静かにモニターを見つめながら、賀来は震える膝を手のひらで押さえた。
傍らに立つ軍人の無線から固い声が流れる。とうとう、結城の要求が通った。明瞭な軍人口調で促され、賀来は立ち上がり、痛む足を引きずるようにして固い地面の上を歩き出した。歩きながら、暗い空を、仰いだ。
なあ結城、と胸の中で語りかける。
神学校の礼拝堂で、俺はいつの日かお前と再会する日を、何度も思い描いていた。いつの日かあの地獄から立ち直ったお前と再会できるだろうと思っていた。まさかお前の命が尽きかけているなんて、しかもそれが俺のせいだなんて、……考えもしなかった。
お前はどんな思いで生きてきた?
二年前のあの日、どうして俺に会いに来たんだ?
なぜ俺を責めなかった……?
「神のご加護を」
案内してきた軍人に声を掛けられて、賀来は我に返った。
耳の隠しマイク――命綱を押さえる。
恐らく、彼の目的を聞き出すだけでは終わらないだろう。ふたりで一緒に死ぬか、MWを使って多くの命を道連れにすることになるのか、賀来にはわからなかった。
せめてあの子たちだけは助けたいと願い、思わず胸の十字架をまさぐろうとして、賀来は雷に打たれたように、動きを止めた。それは直感だった。だがその考えの正しさを確信して、賀来は天を仰ぐ――ようやく、わかった。結城のMWへの執着がなんであったのか。
胸の奥底から込み上がってくるどうしようもない悲しみに、賀来は思わず唇を噛みしめる。
結城もまた、賀来が神に縋らなければ生きられなかったように、MWに縋って生きてきたのだと。
細かく震える指先をきつく握り締め、これから会うことになるだろう結城の姿を思い浮かべて、賀来は祈るように目を閉じた。
結城。
今度は俺がお前を助ける。
お前を救えるのは俺だけだろう……?
作品名:【 「 MW 」 】 作家名:池浦.a.w