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みとなんこ@紺
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いと小さき世界は廻る

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「――――それじゃ、あとは最後の一押しといくか」




完全な夜が街を支配していた。
普段ならば沈む事のない1つ目の白い月が、淡く地上を照らしているというのに、今日は低くたれ込めた雲に覆われ、深い闇に閉ざされている。
市街の中へと行けば大きな通りには街灯などがあり、繁華街の眠らぬ店が松明やランプを掲げて辺りを照らしている。だが、ここは街の外輪部にあたる、スラム街と呼ばれる場所であり、様々な理由から開発からはいつも取り残されている場所だった。
ただし常であれば深夜に差し掛かるこの時間、誰も出歩く者などいないはずだが、時折ランタンを下げた2、3人の男達が辺りを警戒するようにして見回ってる。路地の隅に蹲り、朝までの眠りを貪る者たちは、それを迷惑そうに目の端にとめていた。
誰だか知らないが、この辺りに住む者がヘマをやらかした。
ここにいる誰もが無気力にそう判断し、興味なさげに目を閉じる。ここはそんな場所だった。

ろくに舗装もされていないその真っ暗な道を、黒ずくめの影がさっと過ぎった。
彼は灯りのないはずの道を迷いのない足取りで進む。時折ランタンの光が近寄れば物陰に身を潜め、気配を殺す。見回りの連中をやり過ごし、彼は淀みない足取りである場所を目指していた。
ろくに光のない場所でも、先導する白い猫の姿ははっきりと判る。
すべてを彼の導きに任せて、もう一人の遊戯は地を蹴った。足取りは軽く、同じく彼自身が猫のように足音はしない。
そのまま何度か見回りをやり過ごしながら、彼等は町外れ近くの古い一軒家まで来ていた。
家が見える路地の暗がりに身を隠しながらしばらく様子を窺う。

昼のうちに御伽と舞に依頼して、こっそり本部で捉えられている宝石ドロの顔を拝んできてもらった。
結果、カジノで定期的に出入りして盛大にスッていく男と、御伽の所へ駆け込んで宝石を換金した男は同じ男だということがはっきりした。
いくら戸籍他がまだ浸透していないスラムとはいえ、日頃の羽振りや人となりは聞き込めばすぐ情報は集まってくる。案の定、やはり昼の間に保安官たちが調査でもしに来たんだろう。許可なしの立ち入りを禁ずる札が無造作に扉に掛けられている。
どうやら監視役はいないらしい。その代わり、この辺りを巡回する警官達が一定の時間をおいて異常がないか、確かめに来ているようだった。
まぁ、事が公になっていない間なら、宝石ドロが未遂で終わった今、まだカジノで交換した偽金を所持していただけのケチなコソ泥ということになる。そんな者の自宅に物々しい警備など必要ないと言う事だろう。

2度目の巡回員が去った後、そっとその家の裏手に回った。
辺りに何の気配もない事を確かめ、ベルトに付けたケースから一つの石を取り出した。
闇の中で仄かに発光する石へ向けて、そっと失われた言葉で呼び掛ける。
意思を通い合わせるように深く沈めて、そのものの名を喚んだ。

「来い――――」
『クリクリ?!』
ポン、と石のあった場所に毛玉に手足のついたようなモノが現れた。掌の上で、相変わらずキョロキョロと忙しない毛玉に「相棒でなくて悪いな、クリボー」と笑いかけると、もう一人の遊戯は指先で2階を示した。
「家の中に入ってお仲間がいないか見てきてくれないか」
『クリー!』
再度一声鳴いて、ポンとその姿が消えた。


『…あるかな?』
2階の桟の部分まで登っていた相棒がそっと首を傾げる。
「あるだろ。小銭くらいで止めておけば良かったのに、紙幣どころか宝石類のコピーまでして考えなしに売りさばこうとしたような奴だ。手放すとは思えない」
やがて戻ってきたクリボーが身振り手振りで上を示す。
『2階?…鍵、外してくれたみたいだよ』
「ありがとう、クリボー。戻っててくれ」
労いの言葉を掛けると、応えるように一声鳴くと、姿がかき消え――「おっと」宙でクリボーの封じられている石を受け止めると、もう一人の遊戯はケースにそれを戻した。
『もう一人のボク…!』
先に入っている相棒が呼んでいる。もう一人の遊戯は身軽な動作で2階の窓際まで登って部屋の中へ入った。
入った途端、ひしひしと押し寄せてくる澱んだ波動。
間違いない。
様子を窺っている訳でもない。気配を隠そうともしていない。
こちらに対する敵愾心とかは今のところ何も感じないが、ただただこの重苦しい気配は何だというのだろう。
「――――ブラックマジシャン」
呼び掛けに応えて、今度は彼が右手にはめていた指輪が僅かな紫の光を放つ。
するり、と闇の中から闇と同じ色の衣を纏った青年が空中に音もなく現れ、付き従うように傍らに控えた。
2人は顔を見合わせて、互いに離れぬようにしながら慎重に部屋の中の気配を探る。
部屋の中は雑然としていた。大小様々な壺や何かのガラクタが所狭しと押し込められている。統一性といったものが全く感じられない上に、何処か欠けたりしているのを見て、どうも拾ってきたものらしいと当たりをつける。
部屋のあちこちに転がる壺を一つ一つ何気なく眺めていた遊戯だったが…。
『ッ!』
体中の毛が逆立ったのが自分でも判った。
「どうした、相棒!」
揺れた心はすぐに伝わったらしい。慌てて抱き上げてくれる腕の中で、跳ね上がった心臓を宥めながら『そ、そこ…!』と遊戯は前足でガラクタの中の一点を指した。
魔術師の青年がそっと近寄り、ガラクタの中からソレを拾い上げる――――。


「うわ」


キツイな、これは・・・。
正面から眺めたもう一人の遊戯の感想は至極簡潔だった。