二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みとなんこ@紺
みとなんこ@紺
novelistID. 6351
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

いと小さき世界は廻る

INDEX|9ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

翌日、2人の遊戯は舞の店の前に立っていた。
正しくは、もう一人の遊戯を肩に乗せたいつものスタイルで、配達のフリをして通りかかった、だが。
時計塔広場から放射状に伸びる東よりの大通りの繁華街の中に、舞の店はあった。
公営とはいえカジノはカジノ。昼間から営業している筈もなく、扉にはcloseの札が下がり、中に人がいるかどうかの気配も窺えない。
偽金事件は表だって取り沙汰されていないものの、やはり警戒されているのか、大通りを中心に辺りを彷徨く人の中にはちょっとばかり剣呑な気配を放つ人も混じっているようだった。
――――ちょっと近寄りにくいね。
心の中でそう話し掛ければ『舞と連絡が取りたかったんだがな』と面白くなさそうな声が返ってくる。あまりジロジロ見るわけにも行かず、一端通りから離れようと戻った所で。

「遊戯くん」

小さく呼ぶ声がした。
立ち止まらずに視線でゆっくりと辺りを見回せば、通りにある店の一つの扉が僅かに開いていて、中から長い指先がちょいと誘いを掛けている。
振り仰いだ看板の名に2人して頷くと、さり気なく招かれた扉を潜った。
背後でパタン、と扉が閉まる。
聞き覚えのある声の主は、人差し指を立てると、こっちへ、とジェスチャーで奥へと誘った。数人の人が忙しなく行き交う中を迂回して通された部屋でようやくどちらからともなく息を付いた。
「帰ってたんだ、御伽くん。久し振り」
振り返って遊戯は笑った。応えてここに招き入れた本人も相好を崩す。鮮やかな緑の瞳を細めて御伽も笑い返した。
「久し振りだね、遊戯くんたち。…少し前に戻ってたんだけど、帰って早々ちょっとあってさ」
確かめるまで出るに出られなくなっちゃって、と御伽は続けた。
宝石商である御伽は街から街へと常に移動している。実家でもあり両替商を営むここを拠点としてはいるが、先月都に行くと行って出たまま連絡がなかったのだが…。
「・・・何かあったの?」
「あったといえばあったというか…どうも腑に落ちないんだ。ボクの感覚だけの話なのかもしれないんだけど、気になって」
ちょっとこれを見て欲しい、といって彼が棚から出してきたのはいくつかの大粒の宝石だった。原石から、すでに研磨されたものまで様々だが…。
「…あれ?」
『・・・何かおかしいな』
どれも見事なものばかりだと思う。宝石商と両替商を共に営むこの店には、宝石を換金しようとしたりする輩は確かに多いはずで、これだけの品が揃うのは別に普通のことだとは思うのだが…。
『――――そうか。同じものが2つづつあるんだ』
「2つ?同じものって…確かに似てるけど、そんな筈は…」
「…うん。研磨された物ならまだ見た目だけは揃えられるかもしれないんだけど、天然ものである筈の原石でまったく同じ物なんて、あるはずがないんだ」
遊戯の独白を拾って、御伽は続けた。
「ボクが気付いたのは偶然だった。帰ってきた日に飛び込みできたお客さんに宝石の鑑定を依頼されてね。結構良いものだったんで即引き取らせて貰ったんだ。それでその夜に、都へ持って行こうと思って店が引き取っていた品を見ていたら…昼間見た石と同じ場所に傷のある石を見付けた」
わかりやすい所で言えば、例えば、コレ。
御伽はそう言って箱の中から、紫水晶の原石を二つとりだした。同じ方向に並べ直して、僅かに開いた原石の水晶の結晶部分を指し示す。
「ここをこのルーペで覗いてみて?」
手渡されたそれで片方を覗けば、光を弾く結晶の中に、一条だけ透き通った虹色の光。左右に置かれた石を見比べて見れば、全く同じ部分にそれはあった。
「…まったく、同じ物なの?」
「あり得ない、という前提を排除して考えたら、全く同じ物だと言っていいと思う」
それから店中ひっくり返して、同じだとボクが思った物だけを集めたのがその箱の中身。
そう言って御伽はテーブルに置いた箱を示した。
「物は良い物だし、本物ではあるから構わないといえば構わないんだけど…ボクとしてはすっきりしなくて気持ち悪くて」
遊戯は問い掛けるように隼に目をやり、応えるように紅の瞳がきらめく。一つ頷いて遊戯は顔を上げた。
「――――御伽くん、コレ、触っても良い?」
「2つとも、どうぞ」
そっと手を触れさせる。
両方の原石を手で包んで――――そうして気付いた。
「同じだ・・・」
僅かに感じるだけではない。触ってみれば判る。それは昨夜の、もう一人の遊戯が持って帰ってきた貨幣と同じ魔の気配だった。
「・・・もしかして、舞さんの所の件、もう知ってるの?」
思わず呟いた言葉尻を拾われて、遊戯は目を瞠った。だったら話は早い、と御伽は机の中から何かを引っ張り出す。
机の上に並べられたのは、昨日見たものと同じ紙幣。
「これ…ッ」
鞄の中から昨日の紙幣を引っ張り出す。計5枚、同じものが机の上に並んだ。番号まですべて同じ。そして触れれば勿論残り香とやらが。
「舞さんの店の両替とか、全部うちがするからね。今朝、本部に行く前に舞さんがそっちも調べておいた方が良いかもしれないって話してくれたんだ。調べてみたらやっぱり出てきた」
「…でも出所を調べるにしても、御伽くんちと舞さんの所とどっちに先に持ち込まれたのか、までは判らないよね…」
『・・・いや、そいつはどうかな』
「え?」
傍らを見上げれば、宙空に腕組みをしてそれらを見下ろすもう一人の遊戯の姿が淡く見える。彼は指先で口元を一撫ですると、紅の瞳を細めた。
「…もしかしてもう一人のボク、誰がこんな事やったのか、わかったとか…?」
『"何"だったらこんなことが出来るのか、想像は付いた。お目に掛かった事はないから確証はないけどな。取りあえず誰がこんな事をしたのか、は何となく判った気がする』
「…どういうこと?」
『まず単独犯なのは間違いない』
「単独?どうしてそう思うの?」
『どっちを向いても非効率極まりないからだ』
数人が組んだ組織立った犯罪なら、もっと手の込んだややこしい事になるはず。
テーブルに乗ったもう一人の遊戯は、嘴の先で石を突いた。
『まずこんなコピーが作れるのが判っていれば、わざわざ足の付きやすい偽金をカジノとはいえ公共の場でばらまくはずがない。ついでにこんな宝石だって闇ルートに流れて、まず表には出てこないだろう』
もう一人の遊戯の声は遊戯以外には聞こえない。御伽に中継して話すと、彼はそうだね、と短く同意した。
「ボクの所みたいに表立った所に持ってくるなんて、そういう人たちからすると、関わるだけでリスクは高いだろうから」
「…つまり、足が付く、つかないはこの際関係なくて、本当にそんなのをあまり知らない人がやったのかもしれないってこと?」
『そうだ。もしもアレを本当にどこかの組織の後ろ盾付きで智慧の回る奴が使ったんだとすると、発覚した頃にはきっと手の付けられないことになってるぜ』
だが今はそんな事態になる片鱗もないまま、ちょっとした事件の段階で半端に発覚してしまった。
だから逆に大丈夫なんだよ、と彼は笑った。
『相棒、御伽に頼んでくれないか』

「――――御伽くん。舞さんと一緒に本部に行って、宝石泥棒しようとした人の顔、見覚えないか見てきてくれないかな?」