二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みとなんこ@紺
みとなんこ@紺
novelistID. 6351
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

いと小さき世界は廻る

INDEX|12ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

『もー…意地悪なんだから』
そそくさと逃げるように帰っていった城之内を見送って、店の札を≪CLOSE≫にひっくり返す。鍵を掛けて相棒を振り返ったもう一人の遊戯は、至極楽しげに笑った。
「意地悪なもんか。舞も素直じゃないからな。花の行方が気になっても、城之内くんも聞けるタイプじゃないし」
『まぁそうだけど…』
「お節介、ではあるけどな。でも興味あるだろ?」
『何に?』
「あの城之内くんがあの舞にどうやって花を渡したか」
『そこはすっっっごく気になるね』
きっと教えてくれないだろうけど。
2人で笑いながらカーテンを引き、店の奥へと。もう一人の遊戯が軽く手を振れば、すぅ、とランタンの火が消えていく。

『――――結局、コレが原因だったんだよね?』
「ああ。…一応予想は当たったな」
カウンター越しにも見えないようになっている、仕事場。
奥の部屋の作業台の上に置かれた、持って帰ってきたのは噂の緑の壺。
はっきりいって明るい中で見ても凄い。キツイ。
城之内が夜中に見たら、ちょっと面白い事になりそうな程、壺の表面に張り付いた模様、というか顔は凄かった。
全体をオドロオドロしい緑に彩られ、浮き出た顔は何とも言い難い醜悪な笑みを浮かべている。

『【強欲な壺】…』

「そうだ。持ち主の欲望を戴く代わりに望む物を増やしてやり、代わりにまた更に膨れ上がる邪気を際限なく取り込んでいく…あの宝石ドロはこいつに見込まれて、おかしくなったんだろうぜ」
気付いたのは偶然だろう。壺の中に何げに落としてしまった1枚の小銭が、2枚に増えて戻される。最初は得体の知れない壺の効力を恐れた彼も、金の魔力には抗えなかった。
あとは下る坂を転がるように、墜ちるだけ、だ。
『――――あのコソ泥さん、どうなるのかな』
「本人が本当にフリーなら、この件に関しては証拠不十分で何ともならないと思うぜ。舞にとっては迷惑な話だが、あっちは後ろ暗い所のない貴族連合お抱えの公営カジノ、不正をする必要はないから嫌疑は掛からない。御伽の方は一応モノは本物だ。騙された事にはならない。すべてを自白してこんなモノ使って複製しましたなんて言ったって、城之内くんたちをはじめ、誰も信じやしないだろうしな」
第一、証拠品はここにあるだろ。
ポンと壺を叩く。壺は相変わらずのニヤケ面でただそこにあるだけ。全く動く素振りすら見せない辺り、ある程度の欲望を吸収してしまい、本人(?)としてはそれなりに満足なんではないだろうか。
『…人騒がせな壺だったねぇ…』
「まったくな。…だが、考えようによってはまだマシだぜ、相棒。もしもこいつが本気で悪用されてたらヤバかった」
今回は貨幣や貴金属類で済んだかも知れないが、これがもし公印や手形何かが増やされた日には…。
「今頃目も当てられない大騒ぎ、だったろうな」
『悪い方向へ使おうと思ったら、いくらでも使い道あるんだね』
まぁ、今回は、城之内くんたちの草臥れ損になるだけで済んで良かったのかな。
複雑そうに眉を寄せる相棒に向かって、もう一人の遊戯はふ、と皮肉気に口元をつり上げた。
「こんなものが無くたって、人は充分欲深いもんだけどな」


さて壺を何処へ仕舞ってしまおうか、と部屋を見渡していた時に、遊戯が壺を突きながらそういえば、と思い出したように切り出した。
『不思議に思ってたんだよねー。コレってさ、小銭とか何でもコピーするじゃない?やるならずっとお金にしておけば良かったのに、あの人は何でわざわざドロボウとかしてまで交換するの面倒な宝石とかに拘ったんだろう?』
「さぁな。…試してみたら出来たから、じゃないか?」
それはこんな小銭を一々増やすよりは効率良いだろ。
こんな風に。そう答えると、遊戯は試しに手近に転がっていた硬貨を一枚、壺に放り込んでみた。
チャリン、と乾いた音が返ってくるはずが、返る音は何もなく。
やがて、







ペイッと。
吐いた。ツボが。





『・・・・・・。』
「・・・・・・。」



チャリンリンリン、と足下に小銭が虚しく転がってくる音が響く。
壺は相変わらずの歪んだ笑みを浮かべたままの澄まし顔だ。
もう一人の遊戯は殊更ゆっくりとした動きでそれを拾い上げると、皮肉げに唇を歪めてみせた。


「…さすが【強欲な壺】というだけあるな。ただの小銭如きはお気に召さないみたいだぜ、相棒」


『は、はははは・・・』
これか。
前の所持者が、放り込むブツを段々エスカレートせざるをえなかった理由。
最初は壺には何でも構わなかったんだろう。ただ、段々物の良し悪しを覚えていって、安物には目もくれなくなっていった、というわけか。
それをとても判りやすい形で見せつけられて、遊戯はただ乾いた笑いを返す事しか出来なかった。

割って封じた方がいいんじゃないか、この壺。

一瞬そう思ったが、結局は実行しない心優しい2人の古道具屋に、曰わく付きの代物がまた一つ増える事になる。







時々小銭とかを放り込んで、元に戻っていないか確かめたりしているのは、今のところ遊戯だけの秘密だ。








end