二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みとなんこ@紺
みとなんこ@紺
novelistID. 6351
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

いと小さき世界は廻る

INDEX|14ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 




どうしよう。



遊戯は、刻一刻と時を刻んでいく時計と、カウンターに腰掛けたまま動く気配を見せない半身を交互に見つめながら少々途方に暮れていた。
夕刻現れたメッセンジャーは、淡々と日時と場所を指定して言うだけ言って答えも聞かずに去っていった。
・・・まぁ、これはいつもの事と言えばいつものこと。元々そんなにこちらの都合を気にしてもらった記憶はないのでもう一々気にはしないけれど。
が、そういった礼儀などに結構厳しいもう一人の自分の気には大いに障ったらしい。
彼は深く、静かに怒っているようだった。


どうしよう。
もうそろそろ時間なのに。

腕組みしたまま目を閉じた半身は彫像になってしまったかのように身動き一つしない。
基本的によく似た容貌の筈なのに、どうしてこうも印象が変わるんだろうか、と。現在に全く関係のない感想を抱いてしまう程、静謐な横顔を眺めながら、遊戯は長い尻尾を揺らした。
『もう一人のボク…』
「・・・判ってるさ、相棒。…一方的でも約束は約束だ」
だがな、と先を続ける彼は漸く顔を上げた。きらりと夜のぼんやりしたランプの明かりを照り返して輝く、深い赤の瞳が僅かに細められる。
「素直にアイツの言う事を聞いてやるのは気にくわない」
…うん、気持ちは分かるけど。





『――――おい、そこの貴様』


・・・思えば、出会いは最悪の形から始まった。
通りを2人で歩いていた時に、馬車の中から響いた、声。
辺りに別に誰もいなかったので、自分たちが呼ばれているとは思いもしなかった。
・・・というかあの時はもっぱら絡まれたのは半身の方だったが、一応対象は自分だったので余計思い出しても腹が立つ。
第一出会い頭の時から、彼は人の話も都合も聞いてはいなかった。それでいて訳のわからない自分の主張だけは頑なに通そうとする。それこそ手段を選ばず、だ。
初回のアレを筆頭に、今までに巻き込まれた(表沙汰には決してならない)イザコザは、大なり小なり数知れず。
だが互いに公にされるとイタイ所をよく知っているために、互いに下手に手は出さず、妙なバランスと距離感を保ち続けている。
古道具屋――――目利きの鑑定士と貴族階級の顧客、を表の顔として。

へにゃり、と耳を下げた相棒を見て、漸くもう一人の遊戯は表情を崩した。
すべらかな毛並みを、指先で宥めるようにそっと撫でてやる。
「…判ってる。取りあえず無視するようなことはしないぜ」
やれやれ、と一つ息を付いて立ち上がると、黒の外套を手に彼は立ち上がった。
気は向かなくても、漸く動く気にはなったらしい。扉に鍵を掛け、指先で札を「close」にひっくり返す。
西の街の古道具屋の店主、は本日これにて休業、だ。
今の時間からは、表だって言えない、もう一つの顔の時間。
裏口へ向かうその後を、ととと、と足音も軽く追い掛けながら、遊戯はほっと胸をなで下ろした。
『良かった〜。だってすっぽかそうものなら…』
「本人が直接出向いて来かねないからな」
『…だよね〜…』
そうなると話は更に更にややこしいものになる事は間違いない。
予防線は早めに張るに越した事はない。2人(1人と1匹)は、同時に深く、深く溜め息をついた。
・・・まぁ少なくともあの時からすれば、こんな風な関係になるとは思いもしなかった。縁とは異なもの、とはよくも言ったもの。
「とりあえず精々高く吹っ掛けてやるか」
『笑いが本気だよ、もう一人のボク…』



***



今日は月も雲に隠され、辺りは深い夜の闇に呑まれていた。
店から出てすぐに、無言で軽く示された腕を伝い、半身の肩に乗ると、遊戯はふいと辺りの闇を見回した。
この姿の現在は、光源が殆ど無くともほんの僅かな光と聴覚を頼りに辺りの様子を普段とそう大差なく窺える。
「相棒」
『…近くには誰もいないよ』
答えを受けて、もう一人の遊戯は戸惑い無く闇に足を踏み入れた
黒一色の上着を纏い、闇の中に紛れるように歩き出す。
遊戯は軽く羽織った上着の中に潜り込むようにしながら、(何せ白一色の毛並みは夜目にも目立つのだ)肩の上から辺りを窺った。
やはり人の気配は近くには、なし。
しばらくすれば、隣でクスリと笑う気配がした。
「…久し振りだな」
『そうだね。ここしばらく静かにしてたから』
一時期に比べるとかなり減った、久し振りの「夜の散歩」だ。
昼でも夜でも、ここ何年かで歩き慣れた道だ。
ただし、今は辺りを見回しても動くものは自分たち以外に何一つない。
足音も気配も消して、暗がりを伝うように2人は郊外へと向かって歩いていく。
『今回の呼び出し、何だろうね』
ふと気になって問い掛けた声に、もう一人の遊戯は低く答えた。
「さぁな。だが厄介事ならお断りだ」
『・・・というか、今まで厄介でなかった例しがないよねぇ・・・』
「みなまで言いっこなしだ、相棒」
『だってほら、海馬くんのふってくる話なんて、何なのそれってネタばっかりだし…』
「…その辺はいっそ本人に言ってやりたいな」
『聞いてくれないと思うけど』
「あれは聞く耳持たないって言うんだ」
軽口を叩き合いながら、2人揃って何度かのげんなりを体感しながらも、歩調自体は変わりなく。指定された郊外の広場へと定刻までには辿り着いた。
時刻はまだ宵の口といったところ。
だが、水の枯れた噴水を中心に放射状に広がる広場には人影はない。ここに辿り着くまでもそうだった。
この辺りは主に一般層の住む市街地と貴族達が住む外苑地区との境目になる。どちらかといえば住宅よりも店の多いこの辺りには、住む者自体が少ないのだ。人の住む地域から外れている為に、微妙に保安官達の巡回地域からも外れている。(その辺りは某友人から仕入れた知識なワケだが)
だからこそ、好都合とも言える。
いつもの、市が開かれる広場もしんと静まりかえり、動くものは何もなかった。
ただ一つ、暗がりに佇む彼らを除いて。
辺りに気配の無い事を確認すると、遊戯はざっと辺りを見回した。――――と、一点でその視線が止まる。
広場の目立たない所に止められた、一台の馬車。
遊戯はそれを認めると躊躇無く近寄って行き、声を掛ける事もなく、扉に手をかけて引くとするりと中へ身を滑り込ませた。