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みとなんこ@紺
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いと小さき世界は廻る

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『さっきはどうしたの?もう一人のボク』
モクバの自室を辞して、他の事情を知る家人から話を聞いて回った後、遊戯はさっきから気になっていた事をもう一人の遊戯に問い掛けた。それまで何もなかったというのに、モクバに触れた時の半身の様子がどうにも引っ掛かる。
しかも返ってきた返事は、彼にしては珍しくあやふやな物で。僅かに眉を寄せて、もう一人の遊戯は軽く首を傾げた。
「いや…はっきりした事は判らないんだが。…何か何処かで感じた感覚だったんだが」
それが何なのか思い出せない。
腑に落ちないのは、言い出した本人も同じ事のようだった。

結局、それは一旦保留しておくことにて、カードを見付けたメイド長をはじめ、現場に立ち会った面々に話を聞いて回ったが。判ったのは別にその日は来客もなく、身元の分からないものが邸内に入ったということはない筈だという事。そしてここしばらくでは、何も変わった様子はなかったということの再確認。
つまりはあまり実のある話は聞けなかったという訳だ。
それはつまり、益々内部の人間の犯行の可能性が高い、ということで。

予告状の予告の日まではあと3日。
その日は海馬は外す事の出来ない晩餐会に呼ばれて屋敷を留守にする。その日はモクバも一緒だ。
2人共が屋敷から離れる嫌なタイミングなのが余計モクバには気になっているらしい。
取りあえず、これ以上話を聞いても進展しないだろうと聞き込みに見切りを付けた2人は、モクバに聞いた【瞳】の保管場所を見に行く事にした。
2階の、この屋敷のご主人の部屋のすぐ隣だ。
両開きの大きな扉。丁度ノブの上、通常であれば鍵穴のあるべき箇所に10?四方ほどの板がはめ込まれている。
右隅の小さな鍵穴にまず鍵を差し込む。
するとスライドして現れたのは、バラバラに配置された数字のマス。4×4のボードの上にある15枚の駒を、空いた1マス目を利用して動かし、目的の形にするパズルの一種、ブロックパズルだ。
先程モクバから聞いた、今日の並びは18手で正位置。
もう一人の遊戯はしばらくその並びを見つめると、おもむろに一つ目のマスをスライドさせていく。手つきは淀みなく、次々とマスを動かしていき、最後に右下を空けてすべての数字が綺麗に並んだ。
そうして鍵を回せば、カタン、と何か仕掛けが動く音が返ってノブが回る。
これで正解。
そう、この保管室に入るための鍵は一つではなかった。それには毎日並びの変わる、この捻くれた仕掛け扉のパズルを正しい手数で解かねばならないのだ。
ただし良くできてはいるが、開ける方も大変に面倒くさい。
ともあれ、この面倒な扉(しかも物凄い頑丈らしい)と鍵の2重の備えのお陰で、これまで盗みの被害に遭った事はないらしい。ちなみに稀少なお宝を収集しているという噂の海馬家だが、解錠に失敗した暁には、扉は開かないばかりか何か起こるという噂がまことしやかに邸内に渦巻いていた。――――が、遊戯たちとしては失敗した事がないので、具体的に何が起こるのかは知らない。
ついでに知りたくもない。
『…毎回思うんだけど、良いのかな、勝手に』
「オレたちがここにあるものに興味ないと思ってるんだろうな」
まぁ、おおよそないけれど。
毎度の事ながら微妙に何処かが大胆な兄弟は、保管庫だろうと何だろうとあっさりと鍵を渡してくる。正体を知っている癖に、だ。これは信用されてるととるべきか、いまいちこの家の管理体制とか不安を感じる時もあるのだが。まぁ屋敷の主があれである限り、その辺は杞憂で終わりそうなので深くは考えないようにしている。
「さて、久々のご対面といくか」
重い音と共に、押し開かれた扉。あまり換気はしていないんだろう、澱んだ空気が漏れ出す。
古くから集められてきた物が収められているという薄暗い部屋には、壁一面に数多くの棚には美術品が並べられ、部屋のあちこちに設えられた透明なガラスに覆われた台座には、煌びやかな宝石が静かに眠っている。
だが。
部屋を一瞥して2人は僅かに苦笑を浮かべた。
「…相変わらず動かした跡がないな」
『これだけのものなのにねぇ…』
どれだけの価値があろうと、ここに住まう主ときたら全くと言っていい程、興味を示さないのだ。
よって、これらの品々は多くの人の(まぁ主に貴族仲間だろうが)目に触れる機会もなく、この部屋で眠り続けている。
道具は使って、美術品などは愛でるものだと思う自分たち道具屋からすると、多少勿体ない気がする。
まぁどうするにしろ、それは人の好きずきなので別に構わないのだが。
もう一人の遊戯はその中でも部屋の奥にある、一つの台座へゆっくりと近付いた。
そこには、屋敷の主の最大の、というより唯一の気に入り、この世界に2つとないといわれる、蒼い輝石が輝いているはずで。
『・・・あれ?』
ビロードに沈む大粒の蒼い宝石は、深い光を孕んで瞬いているのだが――――違う。
どれだけ似せていても自分たちには、判る。
「――――どういう事だ?」



「…それはこちらの台詞だ」



低い声は真後ろからした。肩越しに振り返れば、こちらもまた深い蒼と相対する事になった。
部屋に入った時に確かに閉めたはずの扉をいつの間にか開いたらしい。扉にもたれ掛かるようにして背を預けてこちらを眺めていたのは、さんざんっぱら噂をしていたこの屋敷の主だった。
「…何だ。こっちから出向かされるかと思ったのに」
相手を見て取ると、もう一人の遊戯の目がキラリと光った、気がした。うわあモード入っちゃってる、と2人の対面を見ていた遊戯はかっくりと肩を落とした。その気分をそのまま現すように、猫の尻尾がへにゃりと落ちた。
「隣の部屋で一々ごそごそされるのも気が散るのでな」
「悪いな、そんな神経質だとは思ってなかったぜ」
対する屋敷の主は、そんなそれぞれの反応を鼻で笑ってくださった。
それより、と言葉を切ってもう一人の遊戯は視線で肩越しに台座を示す。


「…【瞳】を何処へやった?」


一目見れば判る。
【龍の瞳】はただの美しいだけの宝石ではない。
今ここにあるのは、よく似てはいるが違う。…そもそも、自分たちの目を誤魔化せる筈がないのだ。
以前あの宝石が安置してあったはずの箱に入れられているものは、完全にただの石、だった。
胡乱気に見据えてくる視線をものともせず、屋敷の主はゆっくりと口の端をつり上げた。
「本当にあの予告状が貴様でないという証拠はあるのか?」
「…何だと?」
「本当に貴様でないというのなら、アレの事は気に掛ける必要はない」
「それはどういう意味だ?」
「偽物如きにアレをおめおめとくれてやる程、オレは間抜けではないということだ」
判ったらもう出ろ、とそれだけを告げて背を向ける。
捻くれた物言いだが、その背後にある意を正確に汲み取って、2人して盛大に溜め息を付いた。
「・・・お前なぁ・・・」
『相変わらずだねぇ、海馬くん・・・』
遊戯に指摘されるまでもなく、本当に相変わらずな主殿は部屋の外で待っている。顎で命令されるのは腹が立つが、最後にもう一度だけ部屋を一瞥し、遊戯達は諦めて部屋から出た。
部屋を出た途端、すぐ後ろで再度仕掛けの作動する音が聞こえ、やがて扉は完全に閉ざされた。