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みとなんこ@紺
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いと小さき世界は廻る

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『それ』は待っていた。
「聞こえる」者を待っていた。

自分をここから出して欲しい。
叶えたならば代価を与えよう。

限られたこの力に気付くか?
そしてそれを使えるか?

それはお前が何処までを聞く事が出来るか、によるけれど。

さぁ、小さき者よ、望みを。







***






澄み渡った空を見上げて、一つ大きく伸びをする。
大事なお届け物はすぐ足もと。昼にはまだだいぶ早い時間なだけに、周りにいる人たちはまばらだ。
キョロ、とさりげなく周りを確かめてから、彼は傍らにあるベンチに腰を下ろした。
約束した時間よりは少し早いが、今日は何となく早く出てきてしまった。
待ち合わせの時間は正午。
彼のことだから、時間に遅れることはないだろう。
・・・ただ、少し大変かもしれないけれど。
思わずクスリと小さな笑みが漏れる。
厄介な届け物を任された半身は、今頃かなり怒りながらの帰り道だろう。
近くにいる人が、誰もこちらを見ていない事を確かめて、彼は少し笑みを深めた。

しばらく前から、あちこち開発されていく新市街の中央広場には、大きな時計塔が出来ている。
本当は以前のこぢんまりとした時計台のある広場の方が親しみやすくて好きだったのだが、広くなったらなったで、以前より多くの人々が集う丁度良い憩いの場になっているようだ。
ここにいると色々な話が聞ける。
昼には昼の噂話が。
勿論、夜には夜の。

目を閉じて、耳を澄ませる。
もう一人、待ち人が来るまでにちょっと話を集めてみるのも良いかと思って。
だが、やはりどれだけ耳を澄ませても、拾えるのは街の雑踏の音と、内容までは聞き取れない話ばかり。

―――――うーん…やっぱり、こっちだと聞こえは悪いなぁ…。

まぁ、それが普通なんだけど。


どのくらいそうしていたのか。不意に足下を掠める柔らかい感触に、驚いて目を開けた。
見下ろした先には綺麗な毛並みの灰色猫が一匹、ちょこんと足もとに座っていた。
まだ子供ながら、青い目の美人さんだ。猫は彼を見上げると小さく、にゃぁ、と甘えるように一声鳴いた。
「わー、昼間に会うのは初めてだよね」
おいで、と差し出された手に、猫はスリ、と顔を擦りつけた。
小さな身体を抱き上げて優しく背を撫でてやる。
―――――と。
ほんの少し、彼は寂しげな、ともとれるような笑みを浮かべた。
「ごめんね。・・・今はまだ、会えないんだよ?」
背を撫でる手が心地良いのか、ぐるぐる、と機嫌良く喉を鳴らしていた猫は、降りてきた小さな呟きにピクリと耳を動かした。
するりと腕を抜けると、伸び上がって小さな鼻先をちょん、と付けてご挨拶。
手を離してやると、そのまま膝から降りて雑踏に紛れていく。
何ともなしに目で追ってみれば、猫は路地の入り口の前で立ち止まって振り返った。
まるでまたね、とでも言っていそうな仕草に自然と笑みを刻んで、手を振り見送った。
小さな知り合いを見送って、さてと時計塔を振り仰げば、ちょうど針が重なる頃だった。
・・・そろそろ、時間だろうか。

視界の隅に金の光がきらめいたような気がして、顔を上げた。
上空を我が物顔で舞う、鳥の影。
真っ直ぐにこちらへ降りてくる。翼越しに目を射る陽の光の眩しさに思わず目を細めたが、彼はすぐに立ち上がった。
荷物の袋が足下に転がったようだが、そんなことは気にせずに、空に腕を差し伸べる。

バサッ

翼が一つ強く羽ばたいた時に、しゃらり、と銀色の鎖が揺れた音がした。
鎖の先には光を弾いて輝く、金色の四角錐。
表には不思議な形をした目をような模様が刻まれている。
差し出されるように目前に垂らされる四角錐を受け取ると、彼はそれを首に掛けた。
その刹那、キィンと短く光を弾くような小さな高い音と、四角錐の瞳が僅かに輝きを放ったが、周りにいた誰も、その些細な変化には気付かなかった。
そうして今度こそ鳥は翼をたたみ、差し伸べられたその腕に留まる。
彼は一つ吐息をつくと、視線を合わせてふわりと笑った。

「―――――おかえり、もう一人のボク」