いと小さき世界は廻る
その場の空気が凍り付く。そう告げた遊戯の瞳は笑ってはいなかった。
「どういう事だ」
「もう詳しく説明している時間はない。今回はお前に一口のってもらうぜ、海馬」
何せモクバの安全が掛かっているといわれれば、海馬に否もあるはずもない。
だが、ここで素直に折れる相手ではないので、もう一人の遊戯はもう一つのジョーカーを切った。
「お前が話にのるというのなら、オレの持ってるとっておきの情報を一つお前にやる」
「…情報だと?このオレにか」
「ただの情報じゃないぜ。その辺はお前の方が得意な領分だろう。オレが教えてやる、と言ったのはお前の嫌いな方面の情報さ」
「…オレはオカルトには興味はないと言っている」
「知ってる。だが、お前はこの話を絶対に無視出来ない」
紅い瞳は真っ直ぐに海馬を見据えている。自信ありげにそこまで言い切る事が何だというのか、少なからず興味を引かれた。
聞く体勢に入ったのに気付いたのだろう。もう一人の遊戯は試すように目を細めた。
「取引だ、海馬。オレの持ってる話が気になるというのなら、取引に応じれば続きを話してやる。オレが知る限りの情報を渡す。その先、どう動こうともそれはお前の自由だ」
「オレが応じなければ?」
「その時は大人しく借りとして受け取っておいてやるぜ」
「どちらにせよ、このオレに動けということだろうが」
ご名答。もう一人の遊戯はニヤリと笑って答えてやった。
そう、今回に関しては選択肢はない。・・・何せこの男にとっては失うわけにはいかないものが2つ、掛かっているのだから。
「ふん…よかろう。その話のってやる」
「二言はないな?」
「くどい。――――貴様のチップは、何だ」
仕掛けられているのは海馬の方だというのに、何処までも彼は偉そうだ。
だが、どんな状況でもあくまでも自分のスタンスを崩そうとしないその矜持は、別に嫌いではない。
ゆっくりと口元に弧を引く。
「この世に2つとない物とされてる【龍の瞳】だが、実際は1つじゃない」
「・・・何だと?」
「それは本来は1つの大きな石だった。ある時分かたれて、人の世に散らされた。・・・そのうちの一つはオレたちのじーちゃんが手に入れ、そして今は…お前の手にある」
彼は一旦言葉を切った。
「――――【瞳】はこの世に3つある。さあ、どうする?」
この続きを聞くも聞かないもお前の自由だ、と紅い瞳が笑った。
作品名:いと小さき世界は廻る 作家名:みとなんこ@紺