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みとなんこ@紺
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いと小さき世界は廻る

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扉の前で大きく息を付く。――――と。再度、辺りに人影も気配もない事を確認した。

長かった。

漸く、ようやく願い続けてきた事が叶う。
あの男に地に伏せさせる事が出来るのだ。

男は待つ事には慣れていなかった。
今まで欲しい物はすぐに手に入れてきたし、それをするだけの力を最初から与えられていた。
その力を振るうのに疑問を覚えた事はないし、それによって誰かの道行きが歪んだとしても、罪悪感を感じた事もない。
力のない者が力ある者に虐げられるのは当然の事であり、弱者が強者に従うのは当然の事。
そして自分こそはその強者の位置にしか座した事はなかった。

だが、あの日。
自分を支え続けていたその理念は、根底から覆される事になった。

そうして思い知らされたのだ。

自分は、あの蒼の前では弱者にしか過ぎないのだということを。








辺りの様子を伺い、人の気配は東の棟に集中している事を確認すると、男はおもむろに懐から札を1枚取り出した。
複雑な文様を描くそれを重厚な扉に貼り付け、もう一度辺りを確かめ、手を伸ばす。
次の瞬間、そこには何もなかったかのように、男の身体は室内へと導かれていた。

金の力はやはり偉大だ。
これを多少詰んでやるだけで、大抵の物が手に入る。
得体の知れない魔術師ギルドにくれてやれば、こんな便利な物すら奴らは容易く寄越すのだ。

扉をくぐり抜けた目の前には、待ち望んでいた光景があった。
先代の、その以前から収集されてきた美術品の数々。今宵、【瞳】とか呼ばれる宝石の為だけに、保管室に眠る他の宝飾品や美術品は別室に移されていた。警備もそちらに重点を置くよう、自分の進言に沿う形であちら側の部屋には幾人もの人員を割かれている。
だが、屋敷の主も含め、誰も気付いてはいない。

この中に眠る、先代の最大の遺産に。

清廉なカオをして偽善者ぶるあの若造も、唯一執着を示したあの蒼の宝石に言及すれば容易く動いた。権力の座にあって金に興味がないなぞ嘘だ。誰もが同じように必死に己の領分を守ろうとする。
運び出す手筈は整っている。
あとは、この品々をすべて「送って」しまえば――――。


「そこまでだ」


暗がりから、低い声がする。
我が耳を疑い、男は差し出し掛けていた手を宙で止めた。

ばかな。

今ここで、この場所で聞けるはずのない声だ。
だが望むと望まざると、この声は忘れようはずもない。
「なぜ、何故ここに・・・!」
今は遠く離れた地で、晩餐会が行われている筈。
どれだけ早く切り上げようとも、容易く戻ってこれるような距離ではない。
「自分が泳がされているとも気付かない愚か者が。…ここには貴様の汚い手で触れられるものなぞありはせん」
あり得ない光景に半ば恐慌状態に陥った男を冷たく見据えると、問いには答えぬまま、海馬は冷め切った笑みを口の端に乗せた。


「――――残念だったな、大門。剛三郎の代からの永の務め、ご苦労だった」