いと小さき世界は廻る
何年か前の代替わりの時にかなりモメたらしいが、今代の当主に代わってからは街の経済発展を一手に引き受け、今や押しも押される勢いで勢力を伸ばしている。近隣の街にもその名は届き、本国からの招集も間近、との派手な噂の絶えない家だった。
しかし、たとえ貴族の一家であろうと、この街で何か問題が起これば当然、保安警察の出番となる。よって城之内は何度か今代のご当主とは顔合わせしているのだが、何せこの2人、どうも相性が悪かった。
片や、十代で海馬家の現当主に座する、尊大が服来て歩いてる(城之内・談)海馬瀬人。
片や、庶民出身叩き上げの凡骨(海馬・談)もとい保安官、城之内克也。
ドミノは元々の気風なのか何なのか、わりとのんびりした街とはいえ、やはり何処にでもあるのと同じ身分格差は当然ある。各々の階層の気質を前面に押し出したような2人が気が合うわけはなかった。
前回の、海馬家を巻き込んだ贋作騒ぎの時も、身分云々は基本的に全く気にしない遊戯が結果間に挟まる事になって、結構大変だったのだ。
・・・まぁはっきり言って全編通して本当に大変だったのは、正確には自分ではないのだけど。
「うーん…、そう言えば結局どうしたんだろ…」
「は?お前あの後あいつにどっか連れてかれただろ」
「え?」
バサバサバサッ
「をっ」
「わ」
それまで大人しくしていた隼が、突然羽音をたてて遊戯の肩から飛び立った。
「もう一人のボク?」
2,3度軽く羽ばたくと、通りの角にある店の看板の上に鳥は降り立った。
そこからじっと紅い瞳で2人を見下ろしてくる。
彼の陣取る看板に視線を落とすと、あ、と遊戯が小さく声を上げた。
「――――あ、そうか。ここだっけ」
「何が」
「この絵皿預かった人だよ。すいませーん!」
店の前で遊戯を待ちながら、城之内はふと何かに気付いて辺りを見回すと、アレ、と店を覗き込んだ。
遊戯と話しているのは栗色の長い髪をポニーテールにした娘。西への通り沿いにある、街の角地の花屋。
――――ははーん・・・。
ナルホド、と思った所で再びの羽音と共に、トン、と肩に重みが掛かった。
「ユウギ」
城之内の肩を借りた鳥は、同じように店の中を覗き込んでいる。
「なーんかお前、ホントたまに人間ぽいよなぁ」
鳥に言葉が理解出来るとは思わないが、城之内の独白に絶妙のタイミングで首を傾げるような仕草を返され、それがまた更に人っぽくて、思わず頬を緩めた。
「遊戯が気になるって?店入ってみるか?」
そう問えば肯定するように店の方へと顔を巡らせる。
はいはい、と返事をしながら城之内は店内に足を踏み入れた。
花の種類なぞわかりはしないが、所狭しと並べられた花々は競うように凛とあり、花を愛でる事もない自分の目も楽しませてくれる。ほのかに漂う香りも、作られた物ではないだけに素直に受け入れられた。
「…たまにはいいかもな、花も」
もっとも家とかには別に欲しくないが。柄ではないし、枯れたら可哀想だし。
ちらりと視線を巡らせると、カウンター越しに遊戯とこの店の娘が話している。
作業台にもなっているカウンターに広げられたのが、例の絵皿だろう。他にもいくつか頼まれていたものがあったのか、石のような物(にしか見えない)とかがゴロゴロしていた。
「じゃ、これお返ししますね。何か出てきたらまた教えて下さい」
「ええ、ありがとう。その時はまた鑑定お願いします。・・・あの、お礼本当に良いんですか?そんな石で」
「そんなに大したことはしてないから良いです、気にしなくて。コレを一つ、いただければ」
遊戯はにっこりと笑うと、そういってカウンターに置かれていた石のような物を一つ、つまみ上げる。
本人が良いと言っても、流石にそれだけではと思ったのか、彼女は顔を巡らせるとぱっと顔を綻ばせた。
「せめてお店に飾れるお花か何か、持っていってくださいな」
「え、良いんですか?」
「勿論。飾ったら少し雰囲気も明るくなるし、ちょっとした気分転換にもなりますよ」
花束作りますからちょっと待ってもらえますか?
「花瓶…あったかなぁ…」
「あら、お店に空いているツボとか、たくさんあったでしょう?」
ぶ。
真後ろで聞いていたらしい城之内が吹き出したようだった。
店に並べられたツボのラインナップと、目の前の花たち。
想像するともれなくシュールな事になっている。
遊戯の頭越しに、ぶんぶんぶん、とNoサインを出しているようだけれど、事情のわからない彼女には勿論通じない。
どういう意味か判らずに首を傾げる彼女に向けて、それでも何とか頑張ってもう一度笑みを浮かべた。
「えーと…、探してみます。お花、ありがとう」
作品名:いと小さき世界は廻る 作家名:みとなんこ@紺