二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みとなんこ@紺
みとなんこ@紺
novelistID. 6351
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

BLACK SHEEP

INDEX|3ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

これよろしくね、と。笑顔とともに午前中に上げるはずの書類が上がってなければどうなるかお分かりですね、と伝えろとの暗黙の指令を中尉から拝命し、ハボックは急ぐでもなくいつものように廊下を歩いていた。
すれ違う見知った同僚たちとも軽く挨拶を交わしつつ。そんないつものを一通りクリアし、人知れず一つ息をつく。
珍しく微妙に憂鬱な気分が晴れない。
口の悪い頭の回る同僚に漏らせば、お前がそんなタマかと言われるのが目に見えているが、人に言われるほど図太くも鈍くもないのだ。オレって意外なところで繊細だし・・・たぶん。少なくとも図太さに掛けては上司の足元にも及ばない。と、心の中でハボックは思っている。口に出せばどんな報復がくるか分らないので。
で、その上司の執務室は司令部の結構奥にある。その一角までくると、廊下で見かける人も疎らだ。しかも来客中ともなれば、至急の用がない限り近寄らないのが通例なのだが。・・・そういえば、客というか、先ほど連行まがいに放り込んだ豆台風兄弟(おもに豆なのも台風なのも兄だけなのだが)は大丈夫だろうか。


バタンッ!!


ありゃ。
「くだんねーもんだったら承知しねぇかんな!!」
「ちょ、兄さん…っ!」
何を言っているのか早口で聞き取れなかったが、何か文句と思しきものが聞こえてくる。ついでに弟の可愛い声ですいませんすいません、という謝罪も同時に。
案の定というか。かなりな勢いで執務室から飛び出してきたのは金色の兄弟の兄だった。それからすぐに弟の方も退室してくる。ちゃんと扉を閉める前に一礼までしてるあたり、本当に色々行き届いた弟だ。まぁ何があったのかは知らないが、既に兄の方は周りが見えていないようで。廊下の壁にくっついてそのミニ暴走機関車を避けると、それを追い掛ける弟には一礼をいただいてしまったので答える代わりにヒラヒラと手を振ってやる。
待ってよー!という声が聞こえなくなってから、ハボックはようやくもたれていた壁から背を離した。




あーあ、と思いながらおざなりなノックをして様子を伺う。
凄い事になってたらどうしよう、と恐る恐る覗いてみれば、執務室の中は別に変わりなかった。・・・微妙に朝に持ってきた書類の位置もほぼ変わってないような気がしなくも無いのは気のせいだと思いたかったが。
部屋の主は先程の騒ぎなぞ無かったかのように別に気にした様子も無く、ただハボックの手にしていた追加の書類を見て眉を顰めただけだった。
「…大将、えらい勢いでどっかいっちまいましたけど」
「すぐ戻ってくるだろうから問題ない。今回は意外とすんなりいった」
「あれでですか」
「あれで」
…そ、ですか。何か頷いているが、あれですんなり。まぁご本人様が問題ないと仰有るなら良いですけど。
何か言いたげなのは判っているくせにすっぱりきっぱり無視して、部屋の主はあからさまに面倒くさそうな顔をしながらこちらを眺めている。・・・ああ、そうか。
「追加です」
「いらん」
「・・・いや、駄々捏ねてる場合じゃないですから」
差し出した書類は受け取って貰えなかったので、勝手に机の上に置く。
この上司に対するので一番何が大変かってこっちの気力の持続だ。この大人は大人な癖に時に非常にアレなので、そんな時に耐える為の忍耐力とか対応力とか順応力とか非常に必要になってくる。なにせ頭は回る、口もたつ、地位は高いし、最終手段に指ぱっちん。最悪だ。
ちなみにそんなこの横暴上司にも怖いものはある。
「午前中に上がってるはずの書類って引いてっていいですか?」
「そんなもの…」
「先日、中尉と射撃場でかち合ったんですが、こないだ配備されてきた最新式のライフル、すっげ嬉しそうに弄ってましたけど」
「一刻も早く持っていけ」
脇に避けられて、わざわざ未処理の束を上に置いていた山を指される。…このカムフラージュに意味はあるんだろうか。まぁ普段であればさんざごねて遊ばれて無駄話してから、ようやく回収出来るブツがあっさりと出てきた。
とりあえず中尉の偉大さをかみ締めながら書類を受け取る。一番上に乗っていたのは、先日落とされた橋の修復についての見積もりで…ってあれ?
「差し戻しですか?」
「一部やる必要が無くなったんだ」
「え、でもこれ」
早く工事しないとヤバいんじゃ、と言い掛けた所で大佐はにや、と口元を吊り上げた。
「鋼の錬金術師に協力を要請したからな」
「・・・ああ!」
なるほど。だからあの子供を連行したわけか。
「確かに大将なら両手でパン、で済みますもんね」
わざわざ金も時間も掛かる工事をしなくても、材料さえあればとりあえずぶらーんと切れてる基礎部分くらいは修復してもらえるんだろう。中尉が黙っていた(というかむしろ積極的に介入していた)のだって、毎年何だかんだと結構満額でふんだくってくる予算だが、支出を抑えられるならそれもよし、ということなんだろう。まぁとばっちりを食らう羽目になる兄弟的には災難なことだが。
「いつまでも鉄道止まってると不便ですしねぇ」
「儲かるのはレストランと宿屋ばかりだな。準備が整い次第、鋼のを現場に連れて行ってくれ」
「了解です。…ところでその肝心の大将たちは何処行ったんで?」
さっき飛び出して行ってましたけど。
十中八九この意地の悪い上官がいらん事を言ったのが兄の気に触ったんだろう。まぁあの子供自体が気の長い方ではないが、ちょっとばかり特殊な環境に身を置いて久しいのも相まって、時々大人顔負けの対応をしてくることもある。しかしそんな駆け引きも、この人相手では上手く機能しないようだが。
「第三保管庫」
「へ?あの物置に?」
「そうだ。…先日の妙な連中からの押収物の中に、兄弟の好きそうな本があってな。中央に送らずに置いてあったんだ」
「え。…てことは証拠品ちょろまかしたんですか?」
「向こうは本の1冊や2冊なくともどうとも思わないだろう。目録を送っているわけでもないしな。こちらの手元に置いた方が余程有効活用できるというものだ」
「そうですね。実際今役立ちそうですもんね」
拾いモノで釣り餌。元手も掛かってないが、(兄弟がアレを気に入れば)多少の手間で誰もがハッピー、という無駄のない構図だ。何か仕掛け人はその手間すら払ってない気がしなくもないが、そこは置いておいて。
橋は何とか早くに片付きそうだが、取りあえずの問題はそれだけではない。寧ろもう一つの方が深刻な問題だ。
「・・・あっちはどうするんで?」
多少憂鬱にはなるが、どうせ避けて通れる話でもない。ハボックは諦めて自分から話を振った。
ちらりを視線を向けてくる上官の顔つきが微妙に変化したような気がする。
「鋼のたちにもある程度気を付けるようには言ったが」
「そうですか」
「――――今回の件に限り、ルートはいくつかに限られている。引き続きマークを外すな」
「…Yes,sir」
ああ、本当に。こういう時にこそ、因果な仕事だと思わずにはいられないのだ。






作品名:BLACK SHEEP 作家名:みとなんこ@紺