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みとなんこ@紺
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BLACK SHEEP

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弟が今夜の宿に、と軍で手配してもらった宿に帰り着いた時、宿の酒場の隅っこで、テーブル一杯に置かれた料理を口一杯に頬張る兄と、その横でテーブルに突っ伏して燃え尽きている馴染みの軍人さんに出くわした。
「・・・何してるの、兄さん」
「はもっくひょういふぁ」
「…食べてから喋ってくれる?」
「んも。・・・ハボック少尉が橋直した特別ボーナスに飯奢ってくれるって」
「えー…」
ホントですか?と聞きたかったのだが、肝心の少尉は何やらブツブツ言いながらとりあえずこっくりと頷いているようで。・・・とりあえず何をしてきたのかは兄に後で問いただすとして(弟は兄が何か仕出かしたということを全く疑っていなかった)、今は受け取ってきた事の伝達の方が大事で。
「少尉、少尉」
「あー…?」
「大佐から、伝言預かってきました」
小声で話しかければ、テーブルにペタリと伏したままのハボックの視線がちらりと上を向く。
テーブルの下で渡されたメモを手渡せば、その体勢のまま紙に目を走らせると、ムク、といきなり身体を起こした。丸めた紙を灰皿に押し込んで、短くなった煙草を押し付ける。
「呼び出し?」
「ほんっと人使い荒いんだからなー…ちょっと行ってくるわ」
さっきまでのダレっぷりをきれいに払拭したハボックはメモが半分以上灰になっているのを横目で見てから席を立った。
「支払いどうしとく?」
「ツケといて」
ヒラヒラと手を振りながら足早に宿を出て行く背を2人して見送って、エドワードは視線をあらかた灰になった紙に写した。いくつかの数字と、何かのコード。
「兄さん」
先ほどまでハボックの座っていた席についたアルフォンスは更に声を潜めた。
「――――思い出したんだ。あの人何処かで見たと思ったんだけど、たぶん間違いじゃない」
視線を合わせて無言で続きを促した。
「先月イーストに寄った時、旧市街近くの宿に泊まったでしょう。…ボク、その日は夜中にちょっと散歩に出てて」


月の明るい晩だった。
旧市街は少しばかり小高い所にあるので、路地から見下ろす街の景色が好きでその日はふらりと外に出たのだ。
人通りの途絶えた静かな街をゆっくり廻る。静かな街に響く鎧の軋む音は小さな音でも響いたが、それを聞きとがめる人もいない。そうしてしばらく辺りを散策していたのだが。
何処かから足早に歩く足音が近付いてくるのに気付いた。一瞬どうしようかとは思ったが、見咎められても、驚かれてもあれなので物陰に隠れてやり過ごそうとしたのだ。そうして影になるところでじっとしていれば、通りがかったのは一人の男だった。
通りがかったのは、容貌としては何処にでもいそうなまだ年若い青年だったが、やたらときょろきょろと周囲に気を配り、警戒している。その様子があからさまだったので、逆に何となくアルフォンスは心配になった。どう見ても、何か自分を追うものから逃げているようにしか見えなかったからだ。
それでも辺りの様子を伺っても、別に誰もついてきているような音も聞こえなかったし、そんな近くには剣呑な気配も感じない。
それでも困っているのなら、何か事情を聞いたりしたほうが良いのかな、と思いだしたその時だ。足音が止まった。
それから小さなノックと、ボソボソと小声でのやりとりのあと、扉の開く音がした。
『こりねぇなぁ兄さん。どうなってもしらねぇぜ』
『ああ、わかったわかった。…それじゃ、下で皆さんお待ちだぜ』
パタンと扉の閉まる音を最後に、あとは元の通りの静寂が広がるだけ。


「次の日にちょっと気になったから、同じ場所に行ってみたんだけど、あったのはただの酒場だったんだよ。だからもう特には気にしないで忘れちゃってたんだけど」
「・・・大佐何か言ってたか?」
「地図でこの場所ですって指したら、何か心当たりがあるっぽい感じだったけど」
「あー…じゃあ知ってんのか…つまんねぇ…」
「え、何が?」
「貸し作るいい機会だと思ったんだけどな」
「何のこと?」
焦れたように問えば、齧っていた鳥の骨付き肉をピコピコ振った。
「アルは覚えてないか?セントラルで会ったあの怪しい情報屋のおっさん」
「セントラルなんて怪しい人満載だったじゃない。えーっと…」
「金さえ積んだら軍の情報でも流せるとかって豪語してたのいたじゃん」
「・・・ああ!」
「あのおっさん言ってたよな。東部にもツテはあるからとかって教えてくれてさ」
「『狼の牙』の印を探せって…そうだよ、兄さん!あの酒場の看板、狼の横顔みたいな奴だった!」
「決まりだな」
齧っていた鳥の足を皿の上に放り出して、エドワードは立ち上がった。椅子に掛けっぱなしにしていたコートを羽織るとチャラ、と腰に着けていたチェーンが硬質な音を立てた。
「何処行くの?」
「見物に行くに決まってんだろ。これであっさり終わるワケねぇって」
「・・・ボクはむしろ兄さんが行った方が余計事態ややこしくなるんじゃないかって思うんだけど」
「いやいやいや、今回の件に関しては大佐殿から正式に協力要請いただいたわけですし?むしろ顔出さなかったらで出さなかったで『おや鋼の。君がぐーぐー寝ている間にすべて終わってしまったよ』とか言っていちゃもんつけられるに決まってる」
「・・・本当のところは?」
「情報屋のそのおっさん、とっ捕まってぶち込まれる前に何かいい情報持ってないか確かめとかなきゃな!」
「・・・・・・。」
それって上前をはねるってやつじゃないのかな、とアルフォンスの頭を過ぎったが、兄の為、ひいては自分の為に見ないフリをする事にした。しかしちょっとばかり肩が落ちるのは仕方ないだろう。
「・・・兄さんって、たまにちょっと悪人ぽいよね」
「ちょ、おま、言うに事欠いて悪人って…!」



「坊主ー、これの飯代どうすんだー?」
「東方司令部のマスタング大佐にツケといてー!」



宿の主人の問いかけに、クリン、と振り返って、兄は一瞬の躊躇も無く爽やかな笑顔で返した。
「・・・そういうところが」
しかも何か狡くてやだ。との弟の嘆きは届かないようだったけれど。




***




一方その頃。

「おっそいですよ少尉!」
「悪ぃって!つーかコレどうなってんだ!」
時間短縮と市街地を疾走していた時から、耳慣れた音がするのには気付いていた。既に張られていた封鎖されている旧市街の通りを顔パスで抜けてきたはいいが、上司の指示で辿り着いたそこは、何か大変な事になっていた。
普段は人通りもなく、静まり返っているこの辺りは今は混乱の只中だ。
引っ切り無しに銃声がこだまし、その合間に聞こえる拡声器の声は同僚のもののようだ。
「こっちもよくわかんないうちに出動要請が来たんですよ。やっとあの橋の片付け終わったと思ったら、即こっちへ回れって」
「上には曹長たちが行ってます」
「どういう指令来たんだ?」
「上から降りてくる連中を片っ端からふんじばれって」
「あー・・・」
分りやすいが、相変わらず大雑把な指示だ。とりあえず行ってみるしかないな、と手近な一人から獲物を受け取ると、とりあえず上でがなってる同僚のところまで行くか、と駆け出した。
「こらブレダ!何でいきなりドンパチになってんだ!」
作品名:BLACK SHEEP 作家名:みとなんこ@紺