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world of...-side red- #01

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「うーん……。やっぱり他のにしたほうがいいのかなぁ?」
「毎回気にするくらいならそうするよろし。相手する我の身にもなるあるね」
「えー?酷いなぁ」
「知らねーある」

二人は易々と屋敷に侵入した後、要所要所に配備された申し訳程度の見張りを瞬時に片付け、今に至る。
残されたのは、頭の居るこの部屋のみ――
揃って目の前に重く鎮座する両開きの扉を見上げた。
イヴァンがふと疑問を口にする。

「……ねぇ、おかしくない?」
「ん?何がある?」
「だってさ、僕らそんなに派手にやってはいないけど……音くらい聞こえてるよね?」

なのになんで出てこないの、と紫の瞳は耀に問うた。
ふむ、とほんの少し思案して、耀は口を開いた。

「……気にしねーある!此処に奴らが居れば無問題あるね」

ニッと耀はイヴァンに笑いかけた。
それを見、彼もニコリと微笑む。

「うん、そうだね」

さて、と耀が息を吸い込んだ。

「行くあるよ」
「オッケー」

何の躊躇いもなく、二人は扉を蹴り開ける。
バァン、とけたたましい音と共に、呆気なく道は拓けた。
窓辺に居た二つの影は、驚いてこちらを振り向く。

「なっ……!」
「誰だ!!」

ありきたりな問いに、二人は思わず噴き出す。
呑気なことだ、これから何が起こるのかも、外で何が起こっているのかも知らずに。
くっくっとさも可笑しそうに笑う耀は、先程の問いに答えた。

「名乗る必要なんかねーある」

そう告げると、耀は窓辺の男たちの片方に腕を振るった。
仕込まれたナイフが、月光を受けて煌めく。
そして、見事に男の腕に足にと突き刺さっていった。

「ッあああぁあ!!」
「その場限りの相手なんかには――な」

男が倒れると同時に、もう一人の男が少しでもその場から離れようと、動いた――が。
その右肩を窓ガラスごと何かが貫いた。

「くおっ……!!」

倒れ伏した男が目にしたものは、自らに向けられた銃身の長い銃、いや、ショットガンだった。
その向こうに見える男――イヴァンの表情は、非常に穏やかなものだった。

「逃げるつもり?見逃すような親切さなんて、僕らにはないよ……。残念だけどね」

さらに絶望に突き落とす言葉を吐きつつ、イヴァンはゆっくり、ゆっくりと、一歩ずつ近付いていった。
窓辺へ寄っていくと、月明かりでその姿が露わになる。
照らされたイヴァンは、その光を反射して淡く輝いていた。

見上げる男の瞳と、イヴァンの目が交差する。

「えーとね、君たちは裏での独禁法違反ってトコらしいよ?直接関わってないから、よくわかんないけど……」

イヴァンは振り返り、こちらに歩いてきている耀に確認をとる。

「ねぇ、合ってるよね?」
「んぁ?……あぁ、そうあるよ」

耀はいかにも面倒臭そうに答えた。
イヴァンは肩をすくめて、ちょっと困ったように笑ってみせる。

「あれれ、ご不満そうで」
「頭ン中で“アイツ”が五月蝿いある……。不満にもなるあるよ」

トントン、と耀は細い指で自分のこめかみを突く。
それから、足元でもがいている男を見下ろした。

「……はぁ……。つまんねーあるなぁ」
「まったくだよ。今回手応えなさすぎじゃない?」
「是……。とりあえず、あの眼鏡どもが早く来ればいい話あるがね……」

転がる男たちから目線を外すと、二人はその辺にあるソファーに腰掛けた。
耀はぼうっと、ただ暗いだけの天上を見上げる。

「あー………」

耀の視界に、イヴァンが入り込む。
上から覗き込まれているのだ。

「どうしたの?耀くん」

ちらりとイヴァンを見やってから、またあてどなく空を見つめる。

「“アイツ”……キレそうある……」

ズキズキと頭が痛むのを耐えるように、耀はぎゅっと目を瞑る。
それを見つめ、イヴァンは嬉しそうに微笑んだ。

「……辛いの?」
「一寸……」

するとイヴァンは、耀の頬に手を添えて、自分の方に傾けた。
突然のことに、耀の琥珀の瞳が見開かれる。
イヴァンの瞳は、嬉々として弧を描いていた。

「じゃあ――忘れさせてあげようか」
「……色魔め」
「酷いなぁ、そんなつもりじゃないよ?」
「ふん……。お前に頼らなくても平気あるよ」

イヴァンの手をやんわりと払い、耀はそっぽを向いた。

「あんまり我慢しちゃダメだよ。“あの子”にも良くないし、第一……君が、壊れちゃうかも」
「……そうあるな」

静かな会話が交わされている間、イヴァンに肩を撃ち抜かれた男が、まだ健在の左腕で銃を取り出し、構えた。
少しずつ照準を合わせ、銀髪の頭を狙う。
引き金に指をかけ、まさに放たんとした時――

それより早く、イヴァンは片手でショットガンを放った。
背後など、微塵も振り返らずに。
そしてその弾は、男の左肩を貫いた。
叫び声と、吹き出す血が辺りに散漫する。

「何……してるのさ?」

顔だけをそっちに向けて、イヴァンはその愚者を見た。
紫の瞳には、侮蔑と少しの怒りと、狂気がちらついている。

「君さぁ、どうしようもなく馬鹿だね……。“死神”に楯突くなんてさ!」

あはははは!と心のこもっていない笑いをした後、すぐにイヴァンは落ち着いた雰囲気を取り戻した。

「ふふ……。どの道あとで死ぬんだからさ、少しくらい生きてる時間を享受しようとしたら?――無駄だけどね。……あははははっ!」

――ように見えた、だけだった。

二人の男が倒れる床。
流れる血潮。
ソファーにもたれる二人。
虚ろな視線と、乾いた笑い――

空気が、歪んでいた。


***


屋敷の外で、少しウェーブの掛かった髪を風に揺らしながら、夜空を見上げる青年が居た。
彼はしきりに腕時計を気にしている。
そして、何度目かの溜め息をついた。

「はぁ……。皆頑張ってくれてるのに、あの人ってば何してるんだろ……」

再び満月の空を見上げた時、「おーい!」と呼ぶ声が聞こえてきた。
視線を地上に戻すと、金の髪を揺らしてこちらに駆けて来る人影がひとつ、見えた。

「もう!何やってるのさアル!みんな、今すごい頑張ってるのに!」
「ごめんよマシュー!支度するのに手間掛かっちゃってね」

腕組みをしてぽこぽこと怒るマシューに、手を合わせて謝るアルフレッド。
この様子からは想像も出来ないが、彼は――

「ほら、早く中に――ん!」

マシューの視界がぐらりと揺れたかと思うと、アルフレッドに口付けをされていた。
時間をおかず、すぐに離れる唇。
真っ赤になったマシューを見て、満足そうに笑うアルフレッド。

「待たせてごめんよ?」
「ぼっ……僕は平気だから!それより、中で二人が待ってるよ……。今頃」
「うん、行こうか!」

死体のゴロゴロ転がる屋敷へ入り、テキトーにその辺をうろつく。
好き勝手に歩くアルフレッドの後を、マシューは黙ってついて行った。
しばらくして、アルフレッドは複数人が倒れているところで立ち止まった。
作品名:world of...-side red- #01 作家名:三ノ宮 倖