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world of...-side red- #04

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「ふん、どうやらまだ食い足りないらしいねぇ……。そいじゃ、ちょっと本気出してフルコースのお見舞いと行きましょーか?」
「これで最後通牒だぜ。逃げるか死ぬか――選べよ」


*


古城の屋上。
夜空に流れていく細い雲を眺め、二人の青年が背中合わせに座っていた。

「来んの遅ぇー。暇やしー」
「そうだねー。なんか俺、お腹空いてきたよ」

一人は、肩口までの柔らかな金髪に、新緑のような鮮やかな色の瞳を煌めかせた、フェリクス。
もう一人は、特徴的な癖毛と、揃いの透き通りそうな栗色の髪と目を持った、フェリシアーノ。
二人はこの組織で出会い、あっという間に意気投合した友人同士である。

屋上を任されたは良いものの、敵が上がって来るのがあまりにも遅い。
確かに気配はするのだが、どうも鈍足なのである。
暇を持て余し、二人は風で冷える体を寄り添わせていた。

「ていうかさっむ!マジありえん、なんで待たすわけ!?」

ぶるっとフェリクスが身震いする。
彼を気遣い、フェリシアーノは自分の上着をその肩にかけた。

「大丈夫?体は大事にしなきゃね」
「お、ええの?上着。あんがとー」

互いに微笑み合う。
だが、その時。
不意に鋭い気配を感じ、二人は周囲を警戒した。

「……やっとお出まし、って感じ?」
「みたいだね。準備は?」
「いつでも出れるんよ」

しばし、闇の沈黙の中、敵と互いの位置を探り合った。
誰もが無言。聞こえるのは、吹き抜ける風と友人の息遣いのみ。

「……」

―――上……!!

フェリシアーノが、手にした二丁のうち右の銃のみを、振り向くことなく天へと向け、そのまま放った。
お?と言いながらフェリクスが振り向くのと、屋上にある時計塔から何かが落ちてくるのは、ほぼ同時であった。

「Ce l'ho fatta!(やったぁ!)当たったよ!」
「すっげー!流石はフェリシアーノやし!」

二人は無邪気に笑いながら、拳をコツンとぶつけ合った。
一方、高台から一転して冷たく固い床へと叩き付けられた男は、鈍い痛みに声をもらした。
そこへフェリシアーノが歩み寄り、傍にしゃがみ込むと。
躊躇いなく、男のこめかみに銃口を押し当てた。
一連の行為を見つめるフェリクスは、何ら意見を唱えない。
それどころか、彼の一挙一動を全て記憶に収めるかの如く、男とフェリシアーノを見つめたままだ。

男は、痛みで麻痺する感覚の中でも、はっきりと“異常”を感じ取った。

栗色の瞳が細められている。
そう。
フェリシアーノは――微笑っていた。

「びっくりしたよ~、まさか後ろを取られるなんてね。……うん、それは褒めてあげる。だけどね、このままじゃ帰せないんだ」

Ciao.(ばいばい)
ニコッともう一度微笑むと、乾いた音が辺りに響き渡った。
立ち上がったフェリシアーノの白いシャツには、至近距離で撃った為に、倒れ伏す男の血が付着していた。
それを指差しながら、フェリクスが指摘した。

「Cheers za dobra prace(お疲れー)。あ、シャツ汚してるんよ」
「Grazie(ありがとう)♪……え?うわっ!結構べったり付いてるよー!ルートに怒られるー!」

どうしよう、とフェリシアーノは頭を抱えて慌てている。
とても数秒前に人を殺めたとは思えない微笑ましさであった。
その様子を半ば呆れ気味に、しかしとても楽しそうにフェリクスは眺めていた。
するとそこに、別の発砲音が聞こえた。

「!」

フェリクスは不意に、後頭部への衝撃を覚えた。
誰かが、暗闇で笑っているのが分かる。
――仕留めた、と。
ところが、その甘い期待は、直後に裏切られた。

「……いったいんだけど」

思いっきり不機嫌そうな顔で、フェリクスは頭を摩りながら振り返った。
キン、と短い金属音を立て、弾丸がコンクリートの床に落ちる。
――馬鹿な。
フェリクスを撃った男は、驚愕に目を見開いた。

確かに弾丸は、風に揺れる金髪目掛けて放たれた。
そしてそれは間違いなく、当たったのだ。
結果として、小さな頭は穿たれる……はずであった。
だが、あろうことか青年は倒れなかった。
そればかりか――

「あぁそう……Nie umrzesz(死にたいん)?」

拳銃を手に、男目掛けて飛び出したのだ。
あの瞬間、普通ならもう死んでいてもおかしくは無かった。
あの瞬間に、殺していたはずだった。
本当に、殺した―――?

混乱する男の視界が、ぐわりと持ち上がった。
気付けば、フェリクスは男の胸ぐらを掴み、その額に銃を向けていた。
下から見上げてくる瞳には、不満の色が満ちている。
他にも壁伝いに登ってきた者たちの、息を呑む音や、恐怖に短い悲鳴をあげる声が聞こえた。

「俺を狙って撃つとかさぁ……何なん?馬鹿?言っとくけど――」

怒りの表情のまま、フェリクスは意地悪げに口元をつり上げた。

「――俺、“殺しても死なん”し」

言い終わると同時に、彼は引き金を引いた。
脳天を撃ち抜かれた男は、フェリクスに手を離されると、重力に従って地へと落ちた。
それを目の当たりにした侵入者たちは恐れをなして逃げ出すか、仇と言わんばかりにフェリクスを目指すか、どちらかであった。
羽の模様があしらわれた銃を再度構え、フェリクスは言い放った。

「だぁかぁらぁ……何度やっても同じなんよッ!!」

暴れ出したフェリクスを遠くに見やり、一瞬きょとんとした後、ぱぁっと笑顔を見せた。
そしてフェリシアーノは、自らその戦闘の渦へと飛び込んだのだった。

「助太刀するでありますーっ!!」


みんなの為に働いて、褒めてもらうんだから――


*


屋上での惨状を目撃した者たちは、闇に包まれ一層深さを増している森へと逃走を図った。

「おや、どちらへ行かれるんです?」

ふと、森から澄んだ声が響いた。
それに足を止めたのが運の尽きだった。
上を見上げた者は、菊の刀に首を削ぎ落とされた。
振り返った者は、ルートヴィッヒに眉間を撃ち抜かれた。
集団には更なる動揺が広がったが、生真面目な仕事人たちは、わざわざ見逃すようなことはしない。
ルートヴィッヒはさっと辺りを見回して、大まかに数を確認した。

「思ったより多かったな。いけそうか、本田」

肩をすくめながら、菊はその言葉に答える。
何を今更、とでも言うように。

「出来ることが前提じゃないですか」


そう、それは。
単なる“任務”に過ぎないのだ。


*


作戦室の扉が、軽いノックの後に開かれる。
顔を覗かせたのは、バッシュとマリーのツヴィンクリ兄妹であった。

「深部には今の所、侵入の形跡は無いぞ。我が輩らは引き続いて警戒に当たるが、問題は無いな?」
「えぇ、頼みますよ」

バッシュの言葉に、ローデリヒは信頼の眼差しで答えた。
一方マリーは、作戦室に籠もる情報部のメンバーに「皆さん、頑張って下さいまし」と激励の言葉を送った。
作品名:world of...-side red- #04 作家名:三ノ宮 倖