おわりの はじまり
チャットでしか会ったことがなかった人間に、実際に会うということは実に興味深い。
もちろん自分だって例外じゃない。期待、不安、恐れ、もしかしたら幻滅。そんなフワフワとした緊張感。
田中太郎さんってどんな人なのかな? 優しい人なのかな? イケメンかな?
キモオタだったらどうしよう!? …なーんて…。
実際に帝人君に会ってみて、あまりの普通さに驚いたものだ。
シズちゃんに会うかもしれない危険を冒してまで君に会うために池袋へ足を運んだ。
君は俺が確信を持っていたにも関わらず、疑いをもってしまうくらいあまりにも普通で、自然で、見事にダラーズの影を隠してしまっていたから。
…だからこそ、君が知りたくて。もっともっと知りたくなって君を観察した。
リアルの君、君の日常、君の行動、君の顔…。ねえ帝人君、君が思う以上に俺は君に執着しているんだ。
だから君が僕のことを何も知らないでいるなんて、そんなのおかしいと思わないかい?
君が紀田正臣に笑顔を見せる。
君の笑顔が園原杏里に、門田京平に、セルティ・ストゥルルソンに、挙句の果てには平和島静雄にまで!
何てことだ!
君にとって…俺はいつだって怪しげな情報屋で、油断のならない危険人物。
しかも紀田正臣のせいで『絶対に関わっちゃいけない人』だなんて…。
ねえ、そんなのってちょっと理不尽だよね。
…そこまで思考をめぐらせた臨也は、ハッと気が付く。
何故、自分が竜ヶ峰帝人に対して『甘楽』として声を掛けたのか。
客観的に考えれば、今後も彼を観察する上で、自分の正体はばれていない方が都合が良いはず。
その方が彼に偽の情報を流すことや、印象操作をする事などもたやすかったはず。
…実際、セルティにそうしているように。
「俺、は…」
なんてことはない、自分も『人間』だということ。
「驚いたよ、竜ヶ峰帝人くん。いやぁ、恐れ入った!」
どうやら折原臨也は竜ヶ峰帝人ともっと仲良くなりたいらしい。
ネットの世界で、仲良くしているのは自分だと、甘楽=折原臨也である事を分かって欲しかったのだ。
単なるうさんくさい非日常の情報屋ではなく、彼の日常であると。
「君に、特別として接してほしいらしいよ、俺は…」
己を客観的に判断し、臨也は面白そうにクスクスと笑った。
自分にも未だにそんな感情があったのかと。しかもその相手はまだ高校生、これが笑わずにいられようか。