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【銀土】かつて戦争にいた銀さんと今戦場にいる土方の話

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歩いていると、この角を曲がれば大通りが見えるという手前のところで砂の音がして、彼が振り返った。

「……テメェ、いい加減にしろよ」
「あららぁ、怒っちゃってんの? まあ落ち着け。カルシウム摂れ。ニボシ食うか?」
「うるせェお前は俺と距離を取れ!! ついてくんじゃねーよ!」

つれねーなぁと呟いたら「つれてたまるか」と言われた。だから、すたすたそちらへ歩いていった。この男の傍へこんな風に寄っていくことは結構技術が要ることに思えていたけれど、戦場で誰かに歩み寄るよりよっぽど簡単だった。

(ははあ、こいつ、口で言うほど俺のことを警戒していないな)

そんな風に理解したのだが、男はぎょっと目を丸めたあと壁をぴったりと背につけたまま、ひどく気分が悪そうな目付きでこちらをじろりと見る。

「……寄んな」
「まあまあ、そう睨まなくとも俺のしたい話は簡単だ」
「俺はあの歯医者の一件依頼、銀のつくものは近付けねーことにしてんだよ」
「あれ、なんだ、お前俺の名前覚えてんの? すげーな多串くん」
「テメェの名前なんざ知るか!!」

あっさり前言を撤回された。おいおい、もっと自分の言ったことには責任を持っていただきたい。銀時はそんなことを考えながら、間近にその顔を覗き込む。血の匂いがする。何かのために平気で命を捨てるという目をしている。けれど、そこには夢ではなくて、もっと違う色のものが見える。
この男を動かすものの、その頑なさといったら。

「違うなあ」
「あ?」
「さっき、お前があいつらと似ている気がしたけど、気のせいだったと思ってよ」
「あいつらって誰だよ」

そんな風に問われた。しかし、果たして「あいつら」が誰であったのか、銀時にはもう分からなかった。
自分だったのか、友人だったのか、斬った相手だったのかも分からない。何しろ銀時は男の名前も顔もちっとも覚えられなくて、ただ記憶にはきらきらした夢の話とどろどろした死体の色のことしか残っていなかった。たったそれだけしか残らなかった。
表面が透明な膜に覆われた灰色の、見知った目を見て笑う。(多分。笑ったはずだ、と思う。)


「なあ、俺はさあ、人の名前とか昔はどうでもよくて、意味がないものでしかなかったんだよ。ツレ以外の誰の名前も知らなかったし、覚えるつもりもなかった。呼ぶことも、とうとうなかった。とうとう本当に、一度もなかった」