【銀土】かつて戦争にいた銀さんと今戦場にいる土方の話
「……だから、知るかよって……。」
「だからさあ、これからは心を入れ換えようと思うわけよ。 お前の名前、土方なんだったっけ?なにくん?」
「……いいから死ね、離れろ!」
「ぐおっ、」
鳩尾を殴られる。(人が目を見て話しているというのにここで普通、ふつうこんな手段に出るだろうか!)腹を押さえ込んで体をくの字に折ったらちょうど男の肩に頭を預ける形になって、気配で思い切りそいつが眉を顰めたのが分かった。おれしぬかも、呟いたらさっさとしねと返ってくる。ほんとうにまあ。
「要するに何が言いてーのか全然わかんねーよ酔っ払い。さっきから目ェ据わってんだよ。酒臭ェ」
「馬鹿言え、酔ってねーだろどう見ても。要するに、要するにね。要するに俺は、お前みたいなやつがいっぱい死んだのを思い出して、ああ名前を呼んでやればよかったなと思ってるんだよ、わかったかい?」
「は。気色悪ィ、感傷に浸ってんのか? お前が?」
「そうだよ、俺が。 お前の所為で」
零したら、眉根をきつく寄せたその双眸がこっちを真っ直ぐに見た。それはもう、馬鹿みたいな真っ直ぐさで嫌になった。その目とこの血の匂いの向こうへ、遥か遠いかつてがある気がした。
「あの時名前を呼んでやりたかったことを思い出した」
そんなことを言いながら、そのまま手のひらを彼の左へ押し付ける。
心臓の音がした。
ああそれで十分だと思って、なんという贅沢だと思って、銀時は彼から離れた。
「……何しやがる」
「いや。生きているなあと」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「お前のこと? そりゃもう、馬鹿だと思ってる。俺の昔の知り合いに、こんな馬鹿はひとりも居なかったなと」
「だったら俺を見てそんな顔すんじゃねーよ、」
「どんな顔してるって言うんだよ」
笑ったが、その男はやはり笑わなかった。
「名前は?」
そんな風に尋ねる。そうすると、不意に彼の中の何かが揺らいだ。
あるいは、解いたのかもしれなかった。「土方十四郎」と、はっきりと返されて、驚いて瞬きをする。
だめだ、と思う。
やっぱり、どうしても、こいつだけはだめだ。
そんなことは関係がなく、土方は「忘れたらぶっ殺す」と念を押すように吐き捨てた。内ポケットを探り、取り出したケースから直接煙草を咥える。
「物騒な話だ」
作品名:【銀土】かつて戦争にいた銀さんと今戦場にいる土方の話 作家名:てまり@pixiv