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あいつが大嫌い

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トルコに殴られた衝撃などとっくに回復していたが、俺はまだ寝台で自堕落にごろごろする生活を続けていた。いい加減起きろとか言わないだけ、まだトルコも気を使ってはいたのかもしれない。しかしそれ以外の態度は、すっかり元通りのトルコだった。
果物など持ってきていて、腹なんか減っていない、いらないと言っても聞きやしない。その辺りですでに俺はいらいらしていたが、直後の奴の言葉に俺は本気で激昂した。
「まあよぉ、お前もまだ弱っちいんだから。これに懲りたら、これからは無理するんじゃねえよ、な」
「出てけ!」
即座に部屋からたたき出した。しかしその後の言動を見る限り、トルコは何が俺を怒らせたのかまったく理解していなかった。
本当に、俺を舐めるのもいい加減にしろ。
数日間の愉快さも全て粉々に打ち砕かれ、残ったのはただ不愉快な思い出だけ。今思い出してもやっぱりはらわたが煮えくり返る。
こんなことを言われては、その後の俺のとる態度はひとつだ。当然俺は懲りることなどなく、トルコの奴に喧嘩を売り続けた。
あしらわれたり押さえつけられたり、それでもめげずに隙を見ては殴りかかった。
対するあいつからは、少しずつ、少しずつ余裕が消えていった。
俺だっていつまでもガキのままじゃない。必死に身体を鍛えた、周りの強国たちに喧嘩のやり方も教わった。そして、力をつけていく俺に反比例するように、トルコは弱っていった。
初めての本気の殴り合いで、俺はついにトルコを地面に叩き伏せた。
この日のことを、俺は永遠に忘れない。
まるで夢のような、夢にまで見た、現実。この日まで俺の頭上を覆っていた暗雲が、この一瞬を境に全て取り払われたのだ。
目の前に広がるのはどこまでも続く広い世界。俺はそこへ飛び出していける。あまりの眩しさに目がくらみそうだった。
「馬鹿なガキでぇ・・・独立なんかしたって・・・いいことなんか何もねえぞ」
泥にまみれたトルコの呟き、それは負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。いっそうトルコの惨めさを際立たせるだけ。
そこまで堕ちたかと、哀れみの一瞥だけ残して俺はトルコの下を去った。
しかし、このときのトルコの言葉はある意味正しかったのだけれど。
独立してからは苦難の連続だった。何から何まで自分たちの手でやらなければならないのがこんなにも大変だったなんて。昔の自分はあまりにも無知だった。何が正しいのか、自分の進むべき道はどこにあるのか、自分自身で選ばなければならないとなると、これほど難しいことはなかった。正直、俺も正しい道を歩いてきたという自信はない。悩んで、迷って、手探りで進み続けた。
現実は厳しい。周りの奴らには何度もボコボコにされた。身を引き裂かれるような痛みに、立っているのも辛かった時もある。
それでも俺は、歯を食いしばって立ち続けた。
倒れそうになると、あの時のトルコの言葉が耳に蘇る。
馬鹿にされてると思っていたけれど、あれはもしかしたらトルコなりの優しさの現われだったのかもしれない。馬鹿なトルコ、人の良いトルコ。
長いこと母さんやトルコの庇護下にあった俺と違い、あいつはずっと一人で立ち、生き抜いてきた。何度も殴り倒され、死にそうになりながら這い上がって強大になっていった。
あいつに出来たことが俺に出来ない筈がない。そう信じて、俺は血に染まりながら立ち続けた。
いろんなことがあった。辛かったこと、楽しかったこと。
今ならあの時のトルコの言葉を確信を持って否定できる。やっぱり、独立してよかったと。
たとえ貧乏でも、精神の自由は何事にも変えがたい宝。
晴れた日の午後、潮風に吹かれながら母さんの遺跡で猫を抱えて昼寝をする。至福の時。寝転がって見上げた先には、独立したあの日と同じ、美しい青空が広がっている。今でもこんな時には、独立できたことの幸せを噛み締める。
あいつの下にいたのでは、こんな気持ちになれる日は永遠に来なかっただろうから。


「何をされてるんですか、お二人とも!大丈夫ですか!?」
「お!日本」
ずっとぐで〜っとへたりこんでいたトルコが跳ね起きる。慌てた顔で近づいてくる日本に、にやけ面晒して迎えに走っていった。
昔を思い出していたら出遅れた。しかも、止めに行きたくても身体を起こすのがやっと。
畜生トルコめ。
邪魔したいのに身体が動かない。トルコも俺が動けないのわかってて、日本を足止めしている。俺を悔しがらせて、内心で嘲笑ってるに違いない、相変わらず最低な男だ。
日本は話しかけてくるトルコを遮って俺のところへ急ぎ足でやってきた。流石日本だ、やっぱり優しい。トルコと大違い。
「ギリシャさん、大丈夫ですか?立てますか、どこかお怪我は?」
「そんな心配しなくたって、大丈夫でさ。そいつ無駄に頑丈だから」
日本の後からのたのた歩いてきたトルコは、俺の方を見もしないで日本に話しかけている。本当にウザい、番犬気取りか。
「うるさい、お前はどっか行け」
「やだね」
トルコは俺の前を遮るようにして、日本との間に割り込んできた。
「邪魔、どけ」
「お前が動けばいいんでぇ」
動けたらとっくにお前を蹴飛ばしている。
ああ、また腹が立ってきた。
トルコの背中。日本を見つけるトルコ、俺を見ないトルコの背中。
思えば昔からずっと、この背中ばかり見続けていた。


こいつの視界に入るのなんか冗談じゃなかった、身体が腐る。見つかったら、偉そうな態度でああだこうだと説教垂れてくるのは目に見えていたし。
だから俺はあいつの背後から隙を窺うのを常にしていた。隙を見せたらいつでも仕掛けてやるつもりだったのに、なかなか隙を見せなくて、俺はいつも歯噛みしながらあの背中を見つめてた。
あいつのことだから俺のいることなんか気付いてた筈なのに、あいつは俺が仕掛けるまで俺のほうを振り返ることはなかった。俺みたいな属国ごときに何もできるまいと、高をくくっていたのだろう。本当に人を馬鹿にしている。
いつか見返してやると思っていた。いつか、絶対にあいつをひれ伏させてやると思っていた。
そして絶好の機会が巡ってきた。
俺が独立してから、トルコはさらに弱っていった。傷だらけになり、立つことすら覚束なくなったトルコ。俺はその様子をせせら笑いながら眺めていた。
いい気味だ。さんざんコケにしてくれた報いだ。
ただ見ているだけでは飽き足らず、俺もトルコを殴り飛ばし、踏みつけてやった。気持ちよかった、まさに痛快。今まで生きてきた中で、一番愉しいひとときだったかもしれない。
地べたを這って逃げるトルコ。一体どこへ行こうというのか、お前の居場所なんてもうどこにもない。
ああ、でも。俺が支配してやってもいい。
これからは立場が逆になるんだ。すたぼろの惨めな姿で俺の前に這い蹲れ。ずっと馬鹿にしていた俺の下で、歯噛みをしながら俺が進むのを見ていればいい。
俺は逃げるあいつの腕をつかんで引きずり起こそうとした。
あと少しで俺はあいつを捕まえることが出来た。
あいつを掴める筈だった!
しかし、捕まえたと思った瞬間あいつの身体は掻き消えた。
俺の手は空を掴み、勢いを殺せず地に膝を着く。
作品名:あいつが大嫌い 作家名:だっぴゃ