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【P4】はじめからコインに裏表など

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 だいぶ大きいジャケットに埋もれるような格好でクマも菜々子の隣に並ぶ。胴体部分の雪玉はもう作ってしまっていたから、あとは頭を作って乗せるだけだ。顔の造形につかう木炭やバケツは、雪だるまならこれがないと、と気を利かせた陽介が差し入れてくれた。
 冬休みに入ってから毎日のように遊んでいる。
 春からこちら、連続殺人だのペルソナだの信じられないようなことが続いて気を張っていたので、その反動もあるかもしれない。大晦日から三が日にも、半泣きの陽介から繁忙を極めたジュネスのアルバイト要請を受けて顔を合わせていたから、仲間の姿を見ないほうが落ち着かない。
 さっき完二や千枝も似たようなことを言っていたので、嬉しくなって笑ってしまった。
 もうこの町で奇妙な事件は起きない。テレビの世界から霧を撒き散らし、現実すら食い荒らそうとしていたアメノサギリは仲間とともに撃退したし、その異形から力を得ただろう足立の身柄も今は拘束されている。霧のせいで不安定になっていた人々も、今はすっかり以前の暮らしに戻っていた。
 仲間たちや菜々子、堂島も、日常に戻れるだろう。
「お兄ちゃん、頭できた! のっけて!」
「――うん」
 にこにこと馨を呼ぶ菜々子とクマに頷いて思考を切る。
 クマと一緒に持ち上げた頭は少し大きくて、いざ乗せてみてからそれに気づいたので不恰好になってしまったが、それでも菜々子は両手を叩いて喜んだ。馨から受け取ったバケツの中からあれこれ取り出しては背伸びして顔に当てている。クマは胸から抜いた赤いバラを雪ダルマの胸に飾りつけて満足そうだ。
「あとは耳があれば完璧クマね」
「耳つける! クマさんにする!」
「えー……」
「センセイ、何その嫌そうな顔! クマ今モーレツに傷心よ!?」
「冗談だって。……完二! 雪だるまに耳作って。クマの」
 ベンチの傍で何やら顔をつきあわせている完二たちを振り返る。すぐに笑顔で立ち上がった完二の足下には、やたらと凝ったつくりのうさぎの雪像が見えた。
「っス! オレが絡むからにゃあ妥協はないっスよ先輩!」
「あーっ、クマ! なんで先輩のジャケット着てんのよ! ずるい!」
「ず、ずるいって久慈川さん……」
 なぜか指を鳴らす完二の後ろから眉を吊り上げたりせがクマへ猛然と向かい、頭痛をこらえるように顔をしかめた直斗は菜々子の傍で一緒にバケツを覗きこむ。
「……ニンジンは入ってないんだ……」
「ニンジン? たんていさん、ニンジン食べるの?」
「堂島ー! 腹減ったー!」
 髪も服も雪まみれになった陽介たちが歩いてくる。千枝は笑い続ける雪子の背をさすりながら、馨へぐったりと疲れ果てた笑みを向けた。
 ジュネスでのバイト代が支給されたので、今日は堂島家で少し豪華な昼食をとることにしている。このあと買い物に行くはずだったが、陽介たちは菜々子と先に家に向かわせて湯を使わせたほうがいいかもしれない。
「お、できたじゃん雪だるま。でけーな結構」
「菜々子とクマが頑張ったから。……で、おまえ何? どうやったらそんな雪まみれになれんの」
「……まあ……いいじゃねーか。過去のことは」
「そ、そうそう! それよりお昼楽しみだなーあたし」
 遠い目をして鮫川を眺める陽介と、それを訝しむ馨の間に割りこんできた千枝の口元も引き攣っている。平然としているのはようやく笑いの収まった雪子のみで、彼女は目尻の涙を払うと上品に首を傾げた。
「お昼の献立は?」
「人数多いから、鍋」
 馨の一言に、雪だるまを囲む仲間たちがわっと沸いた。
 
 
 
 ジュネスで大量の食材を買いこみ、その大半を雪まみれの陽介に押しつけて先に帰すことにした。唇が不満そうに尖っていたが、風呂で体を温めておけと指摘した馨に反論はなかったのでよしとする。
 風邪をひきでもしたらよくないので、雪子と千枝の申し出をありがたく受け、菜々子とクマを任せて同じく一足先に堂島家へ向かってもらっている。雪が凍ってつるつると滑りやすい商店街の舗道を注意深く踏みしめながら、馨は改めて友人の厚意に胸中で感謝を呟いた。
 それとまったく同じ言葉を、少し先を大股で歩く完二に投げかける。
「ありがとな完二、鍋貸してくれて。助かる」
「や、いっスよ別に。つか、ウチも親父死んでからずっと使ってなかったし」
 からりと笑う完二にもう一度礼を言う。
 何か気のきいた言葉でも出てくればいいものの、唇に乗るのはへらへらした笑みだけというのが情けない。
「……よし、じゃあ完二には肉サービスな。鍋代として」
「マジっスか! っしゃ、腹減らした甲斐があったぜ!」
 すると今まで黙っていたりせがそっと馨の袖を引く。
「ねー先輩、私と直斗にもご褒美ちょうだい? お鍋運ぶの、手伝うんだし?」
「勝手について来といて何言ってんだ、図々しいにも程があんぞ」
「勝手にじゃないもーん。先輩に訊いたら『いいよ。一緒に行こう』って言ってくれたもーん。ねっ直斗」
「えっ? え、ええ……まあ」
「ご褒美ね」
 クマにジャケットを貸したままなのでさすがに寒い。後輩たちの目にうるさくないようさりげなく両腕をこすり、雪中に寂しく立ち尽くすパス亭の前を通り過ぎながら、馨は小鉢に山盛りの肉を前ににこにこ顔の少女ふたりを想像してみる。
 自然と首がななめに傾いた。
「……でもりせも直斗も、肉もらっても困るんじゃない?」
「……んもう、鈍いなあ先輩!」
 玩具にじゃれつく子猫の仕草で、りせは馨の右腕にしがみついてきた。
 心許なくなる足元にひやりとしながら、どうにか踏みとどまってみせた己を激賞してやりたい。
「あっ……ぶない、りせ」
「えへへ。ごめんなさい! でも、ね? これがご褒美で、どうかな?」
 悪びれない少女に嫌悪のない苦笑が浮かぶ。
 ここまで素直になられては馨にできることなどひとつしかない。
 呆れ顔の完二に少し肩を竦め、右腕にぶら下がるりせをきちんと立たせてやり、呆然としているふうの直斗へ空いている左手を差しのべる。
「直斗」
「え。……ええっ、ぼ、僕もですかっ!?」
 狼狽もあからさまに、数歩の距離を後ずさってしまった直斗の目が激しく泳いでいる。
「嫌なら、直斗にはなんか別のお礼考えるけど……」
「べつ、別のご褒美ならいらないですっ」
「じゃあ、ほら。立ち止まってると寒いから。行こう」
「直斗、顔真っ赤〜」
「性格悪ぃぞりせ、からかうんじゃねぇよ。オラ直斗も、先輩待たせんなって」
 ごくりと、直斗が生唾を呑みこんだような音がした。
「そ、それでは。……失礼します」
 そこまで緊張するような手でもなかろうと小さく口元を緩めた馨は、直斗の理性や常識という名の器が深いことを信じきっていた。……すなわち、まさか彼女がりせと同じように全力で左腕に飛びついてこようとは夢にも思っていなかった。
「ちょっ……!」
 靴底が頼りなく滑り、視界がぐるりと上向く。
 青空の端にりせの髪がなびいていて、咄嗟に細い体を自分の腹の上に引き上げた。左腕の先にいるはずの直斗も引き寄せようとして、完二が彼女を小脇に抱えているのが見えてほっとする。空いた手を馨へ伸ばしてくれていたが間に合わない。