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【P4】はじめからコインに裏表など

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 背中から落ちて、痛みよりも雪の冷たさのほうが強烈に背筋を駆けのぼってきた。セーターの襟元から侵入してきた雪の塊が気持ち悪い。
「さぶっ……ごめん直斗、りせ、怪我してない」
「うん……私は平気。ありがと先輩」
「ど、堂島先輩すみません! ……大丈夫、ですか」
「平気。よかったよ直斗が怪我しなくて、ありがとな完二」
「やー……むしろすんません、先輩も引き上げるつもりだったんスけど間に合わなくて」
「おーい、そこの青少年たち、大丈夫?」
 がりがりと後頭部を掻く完二の向こうからのんきな声がよこされる。四人揃って振り向くと、車道を挟んで向かいにあるガソリンスタンドの店内から若い男がひとりこちらへやって来るところだった。片手にボールペンを握ったままだ。
「ごめんねー、今日暇だからずっと外見ててさあ、そこの彼が綺麗にひっくり返るのに思わず見入っちゃったよ。いやあ派手にいったねえ」
 人のいい笑みをたたえる男に毒気を抜かれているうち、彼はさっさとしゃがみこんでまだ尻餅をついたままの馨の手をとった。数回ひっくり返し、あちこち矯めつ眇めつしてから大きく頷く。
「うん、ちょっと擦りむいたくらいか。逆に雪が降っててよかったかもね」
「はあ……」
「ごめんごめん、そんなこと言われても嬉しくないよね。まあ、ここからは気をつけて」
 男が笑顔で差しのべてくれた手に縋り立ち上がりかけた一瞬、視界が揺れた気がしてよろめいた肩を完二が押さえてくれた。強面の顔いっぱいに気遣いが滲んでいる。
「マジで大丈夫かよ先輩、頭ぶっけたんじゃねえの?」
「そこまでドジじゃない、と、思いたい……」
「顔色はいいし、大丈夫だと思うけど。お大事にね」
 人のいいガソリンスタンド店員に手を振られ、今度は慎重に雪上を歩いてみる。先ほど感じた目まいはどうやら気のせいであったらしく、くらりともしなかった。まだ気遣わしげな視線を向けてくれる後輩たちに大げさに眉を下げて笑ってやる。
「俺が滑って転んで尻餅ついたこと、菜々子とか花村には秘密にしてくれるかな……特に花村、あいつ一生かけてこのネタ引っ張りそうだし」
「あー……っスね」
「うん。花村先輩、ここぞとばかりに先輩いじりにきそう」
「菜々子ちゃんにも心配かけられませんからね。……僕が先輩にしたことも、その、口外しないでいただけると……」
 ぞろぞろと完二の家へ向かいながら、馨は何気なくガソリンスタンドを振り返ってみた。あの整った顔立ちをした店員が記憶のどこかに引っかかっている気がしたのだが、当然ながら男はすでに店内へ戻ってしまっていて影すらない。
「なあ先輩、鍋にレタスってナシだと思わねぇ?」
「え、梨?」
 鍋の具材に梨はどうだろう、と首を捻る馨に、なぜか後輩たちが揃って溜め息をつく。
 困惑に瞬いているうちに、さっきの男のことは馨の記憶からすっかり流れていってしまった。


 
 
「なんかねー、テレビの中に新しい場所ができてるような気がするクマ」
 食事の後片付けも済んだ頃、こたつに肩までもぐったクマが唐突に口にした言葉に、くつろいでいた一同は疑問符を浮かべた。
 事件解決後もクマはこまめにテレビの中へ入っている。もともとあちら側がクマの世界であり、異常の原因であるアメノサギリを撃退したあとも晴れない霧を気にかけているのは皆も同じだったから、今までそれを止める者はなかった。一緒にテレビへ入ることもあったが、そんな異常をクマが指摘したのは初めてのことだ。
 膝の上で眠る菜々子を確かめてから、馨は注意深く口をひらく。
「またマヨナカテレビに誰か映る?」
「バカな。ありえません」
 瞬時に返された否定は直斗のものだ。振り向いた馨へかぶりを振り、直斗は手にしていた湯呑みを卓上へ戻す。
「僕たちはすべての元凶であったアメノサギリに力を示し、倒したんです。もし足立刑事以外にあれの影響を受けた者がいたとしても、その後の彼のように力は失ったと考えるべきだ」
 同じ理由で、誰かに落とされたのではなく、事故的にテレビへ入ってしまった者もいないだろうという仮説に反論はない。ないからこそ居間には困惑だけが深い。
 元凶を取り除いたという確信がある。十二月以降は異様なほどの霧が出たこともないし、町は平穏そのものだ。――なぜ今更テレビの世界に異変が起きる。
「……ま、ここで悩んだってしゃーねーだろ。クマだってまだ確実っつってるわけじゃないしな」
 沈黙を破り、ミカンの一房を口中へ放りこみながらのんびりと陽介が言う。馨も直斗も頷いた。
「そんで、一回リセチャンに確認してほしいクマよ。クマあんまり自信ないから」
「いいよ。じゃ、明日でも行ってみよっか」
 りせもすぐクマに賛成した。もし異常の原因がアメノサギリだと確定すれば、いずれ八十稲羽市が再びあの霧に閉ざされてしまうことになる。あの巨大な、何とも知れぬ存在に、約定違反を問い詰めなければいけないだろう。
「じゃあ、明日みんなでジュネスに集合だね」
 雪子の言葉に完二以外全員が首肯した。
「……って聞けよ!」
「は? え、なんスか里中先輩」
 完二はミカンの白い筋とりに夢中になっていたらしく、呆けた顔でコタツを見回す。四方八方から向けられる冷眼の意味がわからないのだろう、彼は綺麗に筋の剥けたミカンを千枝へ差し出した。
「……食います?」
「いらん!」
 千枝の絶叫に、馨の膝の上で菜々子が顔をしかめた。