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【P4】はじめからコインに裏表など

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 溜め息をついてその場にしゃがみこんだ馨は、両手で前髪を掴んで俯いてしまった。拳の隙間から覗く眉がきつく寄せられて、その苦悩や混乱の深さを教える。
 体感する風はないのに周囲の梢がざわざわと揺れて沈黙をかき乱し、それが収まってからやっと馨が口をひらいた。
「……なんで俺?」
 しごく当然の疑問だったがそれに答えられる者もない。蹲る馨の周囲には当惑顔ばかりが並ぶ。
 もともとテレビの中の世界で暮らしていたクマは特例であるとして、馨以外の仲間は皆こちら側で己のシャドウと向き合い、目を背けていた弱さを受け入れることでペルソナ能力を得た。それに目をつけたアメノサギリからこちら側に渡る力、テレビへ入る術を与えられたはずだ。去年の暮れに当のアメノサギリからそう明かされている。
 だが馨は違う。最初からテレビに体を入れられたし、ペルソナを得たのもシャドウに襲われて身の危険が迫ったからだ。しかも陽介や千枝たちには一体しかないペルソナを、馨は当たり前のように様々に入れ替えて使役する。
 その特性から異質だったとはいえ、すでにペルソナを所持している馨のシャドウが、それも今になって出現する意味がまるでわからない。
「……あ、堂島、ペルソナ喚べんのか? なくなったりしてねーよな」
 シャドウが現れたのならペルソナ能力も一時的になくなっているのか。
 ふと思いついた陽介が尋ねると、これにははっきりと肯定が返ってきた。
「喚べる。体に変な感じもないし。……みんな、シャドウと別れてるときってどんな感じだった? 違和感とかある?」
 動揺が治まってきたのか、ぎくしゃくした動きで立ち上がった馨が深呼吸してからぐるりと仲間を見回した。さすがにまだ瞳が揺れているが、口調はしっかりしている。
 示された疑問に首を捻ったのは、陽介と千枝だった。
「いや、俺は全然……ほら、俺の場合マヨナカテレビとかもなかったじゃん」
「あたしも特には。ってか、あんときは雪子助けたくてとにかく必死だったし」
 馨の視線は他の仲間にも向かうが、皆これといって特別な感覚に戸惑ったことはないようだった。直斗が顎をつまんで頷き、まるで独白のようにひっそりと過去を振り返る。
「……そうですね。確かに消耗はしていましたが、今思うとあれは衰弱と霧のせいだった気がします」
「うん。あと精神的な負担とかはあったかもしれないけど」
 白い瞼を伏せる雪子へ、りせも暗い笑顔で同意した。
「……そだね。自分でも知りたくなかったこと、先輩たちの前で嬉しそうにばらしちゃうんだもん。きつかった」
 完二やクマも異見はないようでただ頷いている。シャドウが現れたと自覚できるのは、やはり顔をつき合わせたときなのかもしれない。
 口を噤む馨を、マンションのエントランス内から直斗が呼んだ。
「堂島先輩。ちょっと来てくれませんか」
 直斗が見ていたのは鏡面に彫られた案内図だ。エントランスから左右対称に、住居棟が層を重ねている。
「西棟と東棟があるんですね。先輩のお宅はどちらに? きっと先輩のシャドウもご自宅にいるはずです」
「……わっかりやすいなー、おまえのシャドウ」
「……ほっとけよ」
 感心したように頷いている陽介に軽口で返せるほどにはまだ回復していない。気の抜ける足音で陽介に激突したクマがその反動であえなくアスファルトに転がっているのは、力なく項垂れる馨への援護攻撃のつもりだったのだろうか。
 短い手足をばたつかせる様子に小さく笑う。
「セ、センセイ、笑ってないで助けてクマ」
「悪い。……あと直斗」
「はい」
「うち、八階の角部屋なんだけど……西か東かって言われるとちょっとわからない」
「……はい?」
 直斗の言葉尻が高くなる。こくりと首を傾げて目を丸くする彼女へ、馨は眉尻を下げてかぶりを振った。
「一棟だよ、現実じゃ」
 どちらの八階に自宅があるかはわからない、と言うと直斗は眉をひそめて沈黙する。思考の海に半ば身を沈めた様子が、衝撃から浮上できずにいる馨としては非常に申し訳ない。頭を動かさなければと思うのだが、何を考えればいいかすらわからずにいる。
 完二が肩を回しながらマンションの天井を見上げた。
「まぁ、そっスよね。さすがにそこまで都合よくできちゃいねぇか」
「……堂島くん」
 落ちついた輝きの黒い瞳には馨を気遣う優しさがある。垂れてきた髪を耳にかけ、美しい眉をひそめながら、それでも雪子は見るものを安堵させるような微笑を浮かべた。
「大丈夫? 無理、しなくていいからね。辛かったら辛いって言ってね」
「ありがと、天城」
「ううん、そんな……私たちみんな、あなたに助けてもらったんだもん。これくらい」
「そっスよ。そんな地獄にいるみたいな暗い顔しなくたって、俺らバッチリ先輩助けますから」
「……地顔だよ」
 地を這う声で呻けば、雪子がさっきまでのふわふわとした優しげな表情を瞬時に捨て去り全力で噴き出す。完二は完二で無意味におろおろして直斗やりせに呆れられている。クマと千枝がそこに便乗した。
 じゃれ合う様子の緊張感のなさが、馨に気負わせまいとしてのものだとわかっているから、いつからか強張っていた肩から力が抜けていくのを感じてほっと息をつく。感謝は言葉にしきれない。
「ぱっと済まして帰ろうぜ」
 陽介の笑顔も平素と変わらず、混乱に澱んでいた思考が安堵で徐々に澄んでいく。
「そうだな」
 頷いてから大きく深呼吸する。無臭の空気はりせの言っていたように、季節のものとは違った冷気を纏っている。これが馨のせいでできた場所の空気だと、思い知っておきたかった。
 鳥肌のたつ腕を制服ごしに強くこすって悪寒を無理矢理やりすごす。
「……みんな、集まってほしいんだけど」
 
 
 
「俺と花村と里中が西棟。直斗と完二、天城が東。クマは今日は俺たちのナビ頼む。で、りせは直斗とかのサポート。そっちのリーダーは直斗。質問は?」
「はい先輩」
「はい、りせ」
 ひとまずエントランスにあったソファーに腰を落ち着け、馨は二手に別れての探索を提案した。
 慢心のつもりはないが、すでに下手なシャドウならば手こずることなく撃退できること、りせから周辺をうろつくシャドウの気配はまったくないと太鼓判を押されたことなどから、戦力を分散させても支障はないと判断したのだった。直斗にリーダーを任せたのは判断力の高さを信頼してのことだ。
 馨が説明を終えるのを待ちかねていたように手を挙げたりせは、大きな目を半ば瞼で隠して不満げにしている。
「なんで私が先輩のナビじゃないの? っていうか、このくらいの広さなら私ひとりでも先輩と直斗の案内できるよ?」
「うん、でも、俺の……シャドウさ、さっきりせでも見つけるのに苦労してたじゃん。りせには直斗のほうに集中して、そっちに俺のがいたらすぐ知らせてほしい」
 苦笑にはいささかの痛みさえ混じっている。無粋を口にさせてしまったことを悟ったりせが瞬時に表情をくもらせたのに、馨は気楽に手を振った。大丈夫だから気にしなくていい。
 次に短い腕をいっぱいに伸ばしたのはクマだった。
「じゃあクマがセンセイのシャドウめっけたら? リセチャンに教えればいいクマ?」