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心紡

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「臨也の関心を受けるお前……顔も見たくねえ。ずっと殺したかった。でも殺さねえ。じゃないと臨也の計画狂っちまうからな。でも、臨也が飽きて、お前を壊して良いって言ったら、迷わず会いに行く」

何十時間ぶりに俺は笑った。心の底から、清々しく。

「それまで臨也に平たく愛される快楽に酔ってろよ? そのまま潰すから……なあ」
「生憎俺は、あんたみたいに臨也さんには溺れねえ。何でか判るか」
「あ?」

「折原臨也は誰も愛してないからだ」

眼を瞬かせる。いざやが、だれも、あいしていない。凄く現実味の無い言葉に俺は馬鹿正直に首を傾げた。

「臨也さんはあんたの事も、まともな感情じゃ見てない」

それは至って常人の紀田正臣という人間から見た、正論。



“俺と臨也の間に結ぶものを、他人は愛とは呼ばない。”



そう言われていると気付いた瞬間、俺は腹の底から笑っていた。高らかに響く哄笑。据わった眼に意図的に宿した狂気。無意識に三ヶ島を守るように立ち位置を変える紀田を心底軽蔑した。俺は最早その女の事なんか視界に入っていなかった。明確な殺意。滾らせた俺はシャッターを下ろしている店に近づき、片手で屋根を形作っていた金属の棒を引き剥がした。明らかに目付きが変わる紀田に振り返りざま、獣のような眼で射殺した。

「俺が臨也に抱いているものが愛じゃないなら、この世に愛なんか存在しねえよ」

身構えた紀田に向かって全力でそれを投げつけた。勢い余って掠りもせずにそれは宙を舞う。それを見ながら俺は両腕を広げ空を仰いだ。

「っくはははははは!! そうだろう臨也? 俺は何処も間違ってない、違うなら、元々そんなものが存在しないか、言葉がまだ作られていないだけの話だ。ははっ、ははは!!」

ぴたりと笑い声を止める。一転して無表情になった俺に後ずさる紀田に、同じだけ足を踏み出した。

「それでも否定するか? 臨也が俺に、俺が臨也に感じているこれを。もしそうなら、ああ、よし決めたお前殺す。良いよな臨也? こんな奴要らないよな? お前には俺が居れば良いもんな? 駒の一つを壊しても怒らないだろう? 死体は見せたいから残さないと。あ、でも一応相談した方が良いな。首だけ残そう。ひょっとしたらセルティみたいに生き残るかもしれねえし。はっは。そうならないのを願うなあ、特別が増えたらまた臨也が興味持つかもしれないだろう? じゃあやっぱ殺そう。臨也がお前の事を気にかけるなんて虫唾が走る。ぁあ、ああああああ」

止まれと書かれた標識を視線を向けずに引っこ抜く。振り上げ、何処を狙うか選びながら舌なめずりした。
残念だが俺は、 止まれ、   ない。

「死、」
「おい!」

紀田が汗を浮かべながら叫ぶ。遅い命乞いだと思いながら躊躇い無く振り下ろした。まず足を潰して逃げられねえようにしないと。貫通させる勢いで振るった俺の止まらない腕を止めたのは、遠くから聞こえた俺の名前。

「静雄!」

臨也じゃない。この声は違う。呼び方も違う。だけど俺を知ってる。じゃあ、誰。
面倒臭くて視線だけずらす。一台の車が停車していて、窓から俺を覗いている。何処かで見たような車に眼を細めると、ニット帽を被った男に目の前の紀田が焦ったように呟いた。

「ブルースクウェアの……! っく!」
「あ!」

その一瞬の隙をつき、三ヶ島の手を握って紀田は逃げ出した。すかさず逃がすかと足を踏み出そうとするが一歩遅れた。標識も届かない。追い掛けようとすると車から降りた男が俺の前に立ち塞がる。気が昂ぶっている俺はそいつ諸共吹き飛ばそうと力を込めかけたが、逆光でよく見えなかった顔が映し出されてつい足と手を止めた。

「お前、中学生相手に何やってんだ!?」
「……門田?」

ニット帽の男が俺を落ち着けようとしたのか、ゆっくり頷く。臨也と関連のある存在に俺の意識はそっちに向いた。

「なんで門田が、此処に」
「驚いたのは俺の方だ。お前、引き籠もりやめたのか?」
「今年から高校に入った」
「マジか。おめでとう。確かにもやしは卒業したみたいだが、外に出たと思えばカツアゲか?」

冗談を交えながら男は真面目な顔を崩さない。言葉は真剣だった。
セルティや新羅と同じく、数少ない臨也公認の俺の友人の一人。でもどちらかというと臨也単独の友人。門田京平。臨也が制服を着ていた時代、人に慣れなくて隅に逃げていた俺の言葉を辛抱強く待っていてくれた懐かしい顔だ。

「違う。あいつが俺と臨也を否定した。だから殺す」
「物騒な事言うな。臨也といえばそいつは何処に居るんだよ? お前はもう一人で外を出歩けるのか」
「絶対に殺す。邪魔するなら門田でも赦さない。臨也は居ない。出掛けてる。退いてくれ」
「駄目だ。見た以上はほっとけない。大人しく今日の所は帰れ」

そう言って門田は俺の肩を叩いて宥めようとする。少しずつだが気が鎮まって来た俺は一度呼吸を整えた。

「でもあいつが俺を否定したんだ。臨也は俺を愛していないって言った。俺にとっては存在の否定だ。門田なら判るだろ。追いかけさせてくれ」
「……。あのなあ、俺からも言わせて貰うが、いい加減臨也からも卒業したらどうなんだ?」
「何で」
「そんな屈折した愛情は、他人は気持ち悪がるんだ。俺はお前が臨也を大事にしている事については賛成しているが、臨也の友人の立場から言えばお前はあいつを縛り過ぎだ」

縛り過ぎ? 俺が、臨也を? それの何が悪い。

「臨也には俺しか必要無い。俺も臨也以外要らない。他人が俺たちの事をとやかく言うのも、俺たちが他人に眼を向けるのも、間違ってる!」
「落ち着け。あのな、静雄。お前らがちゃんと想い合って繋がっている事については美しいと思うぞ。でも、なんだかんだで人間は一人に依存していては生きられないんだ。お前も臨也も同じだ」
「俺は人間じゃないから必要無い。門田、俺を怒らせるな。臨也が居なきゃ俺はお前を壊しちまう」
「お前がそうだとしても臨也は違うんだ。だからあいつはお前以外にも興味を持って接触してるだろう? 俺や岸谷に、あの黄巾賊の餓鬼にも。寂しがり屋な人間は一人の温もりだけに満足しないんだ」

門田の言う正論が容赦なく俺に突き刺さる。何でこんな事言うんだ。新羅は何も言わないのに。なんで、お前は臨也の友達なのに。折角、臨也と一緒に居ても恨めしく思わない貴重な人材だったのに。なんで、なんで。ああ、そうか。

「お前も俺を否定するのか……? なら良い、お前から壊す」
「何でそうなる! 良いか、臨也は何もお前だけを求めてる訳じゃないんだ、お前の勘違い……いやそうじゃなくて、臨也にとっての一番はお前だろうが、二番や三番だってちゃんと存在するっていう事なんだ。だけどお前は自分の世界に臨也しか入れていないから、一番好きなのも一番嫌いなのも臨也で、比較の対象が無いんだ。そいつしか居ないって錯覚して、閉じ篭もっているだけだろう?」
作品名:心紡 作家名:青永秋