【イナズマ】仔兎の鼓動
目を閉じて、ゆっくりと、自分の中に降りていく。
こんがらがったものを解きほぐすように、丁寧に考えてみる。
問1。
風丸が自分に言った『好き』は多分、そういう『好き』で、それに関して自分はどう思ったか。
回答。
驚きこそすれ、迷惑だとか、嫌だとかいう感覚はなかった。
問2。
では自分はなぜあの時何も言えなかったのか。
回答。
風丸がどんな言葉を求めてるのか、わからなかったから。
問3。
風丸はどうして自分が『好き』なのか。
回答。
わからない。
問4。
風丸は自分を嫌っているのではなかったのか。
回答。
多分違う。けれど、わからない。
問5。
風丸は自分にそう言ってどうしたいのか。
回答。
わからない。
問6。
自分は風丸のことが『好き』なのか。
回答。
友人として、人間として、とても好ましいとは思うけれど、そういう意味に当てはまるのか、わからない。
「……酷いな」
こんな空欄だらけじゃ、何がわからないのかすらわからないではないか。
過去に自分にそういう『好き』をぶつけてきた相手が、全くいないわけではなかった。
皆一様に恐る恐る、こっそりと手紙が机の中に入っていたこともある。
けれど、それに対して心が動く事はなかった。
こんな風に心臓が言う事を聞かなくなるなんてこと、有りえなかった。
全てにおいて常にトップでいること、そしていつか、妹を迎えに行く事。
それだけを考えていた自分にとって、そんなものはノイズでしかなかったし、自分が他の人間に対してそんな気持ちを抱く事もなかった。
余裕がなかったと言えばそれまで。でも、だから今とても困っている。
恋をしたことがないから、恋がどんなものなのかわからない。
風丸はいつでも自分というものに真剣で、まっすぐで、冗談でこんなことを口にするような男じゃない。
応えるのならいい加減では駄目だ。
ぐる、と体を捩って仰向けになる。もう一度、深呼吸をひとつ。
鬼道は雷門に編入してきたときのことを思い出していた。
まっすぐに、自分の目を見て『気に入らない』と言い放った強い瞳。
最近はぶつかることも少なくなって、隣にいることがごく自然になっているけれど、彼は最初に面と向かってそう言ったのだ。
そう思われても仕方ない、筋の通らないことを自分はしているという自覚はあった。
作品名:【イナズマ】仔兎の鼓動 作家名:茨路妃蝶