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【イナズマ】仔兎の鼓動

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風丸から、その言葉を聞きたくないと自分は思ったのだ。
鬼道の微かな戸惑いに気づかず、風丸は柔らかな口調で言葉を紡いだ。

「そうだなあ……多分、きっかけってものはあったと思うけど、それ以外は本当に些細なんだ。思ってたよりずっといい奴なんだな、とか、一緒にいると落ち着くな、とか、好きなものが一緒なんだなとか、そういうことでさ。意識して追いかければどんどんそういう小さいものが重なっていって、気がついたら好きになってた。それじゃ答えにはならないか」
「それは友人として、でも同じことだろう。どうしてそこで……そういうことになる」
「どうしてだろう……自分でもよくわからないんだけど、でも、」

風丸の瞳がすうっと細くなる。とても大事なものを見つめるように。

「鬼道は、なんか、特別だなあ、って思ったんだ」
「……特別」
「ああ」

くらりと眩暈がする。
風に踊る髪も、その笑顔も、あまりに綺麗で完璧で、自分に向けられたその声の響きが、あまりに柔らかで。

「……風丸は、どうしたいんだ」
「どう、って?」
「たとえば、俺がお前に応えたとして、どうしたいんだ」

くらくらと揺れる頭で、手をつなぐだとか、キスをするだとか、そこら中に溢れている恋の歌みたいな、そういうことを求めているのかと問いかける。
風丸はしばらく何か思い巡らせるように黙って腕を組んでいたが、やがて真剣な顔で静かに唇を解いた。

「そういうことがしたくない、わけじゃないけど、でもそれは付属というか、気持ちに勝手についてくるもの、だと思う。ただ、俺が願ってるのは、何よりも鬼道の傍にいるのが他の誰でもなくて、自分だったらいいってこと」
「う……」
「多分、友情とか恋愛とか、きっちり線引きなんて出来ない。鬼道が思ってるほど、俺もよくわかってない。ただ、鬼道が誰の傍でもなくて、俺の隣で笑ってくれてたらいいのにって思った。ずっと一緒にいたいんだって」

手をつなぐとか、キスをするとか、それはそういう気持ちについてくるものだろ。
そう言って風丸は笑う。
ああ、かなわない、そう思った。
どうしてそんなに、明け透けに気持ちをぶつけられるんだろう。
どんなにとんでもないことを言っているのか、自覚はあるんだろうか。
風丸一郎太にそんなことを言われて、嫌だと感じる人間なんて、きっとどこにもいない。
もちろん、自分も含めて。