夢のあと
臨也さんの異変に僕が気付いたとき、それはもう手遅れの状態にまで進行していた。
会話が噛み合わない。
何かがおかしい。
ちょっと調べてくると言った臨也さんと別れた次の日、彼は久しぶりだね、と笑ってまた僕の前に現れた。困惑する臨也さんを無理矢理引き連れて訪れた新羅さんは、特に臆した風もなくこう言い放った。
前向性健忘症だね。君にとったら職業柄、致命的なんじゃないかい。
「ぜん・・・・?」
「何ソレ」
「発症以降、新しい物事を記憶できなくなる病気のことさ」
「え、あの、」
「意味わかんないよ新羅。俺きちんと覚えてるし」
「そうかなぁ。じゃあ臨也、今日は何月何日?」
「新羅さん、」
「8月12日でしょ?」
ね?と僕を振り向いた臨也さんに、僕はそのときなんと返したのか、どうしても思い出せない。
8月20日、とてもつもなく蒸したその日の夜、僕は初めて、臨也さんの涙に触れた。強く強く抱きしめられて、好きだと言われた。そのまま全てが繋がって、次の日の朝。
「あれ、帝人くん?なんでここにいるの?」
まるで初めからなかったかのように、全てが解けた。