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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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鬼の恋

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新八がぎゅっと竹刀を握るとそれを合図に二人が間合いを取り始めた。竹刀とはいえ防具を身につけていない二人は打ち込む事をせずじりじりと間合いをつめ 相手の出方をうかがっていた。ジャリッという音とともに新八が打ち込みに入った。竹刀を沖田の面に向かって叩き付けたが、沖田はそれを竹刀でかわすと派手な音がたった。それに端を発して新八が強く打ち込みを繰り返す。沖田はそれを受けつつ前へと間合いをつめる。新八との距離を数センチまで詰めた。後ろに下がった新八に素早い動きで打ちかかるとそれを今度は新八が竹刀で受けた。面だけでなく胴や小手を狙ってきたが、新八はかろうじてよけている。
「坊主、いい動きするじゃねえか」
土方の口元に自然と笑みが浮かぶ。周りにいた隊士も沖田と互角とまでは行かないが、打ち込まれたままでは無い新八を見て感心していた。
パアンと音がした。新八が沖田の胴にいれた音だった。沖田はかろうじてそれを竹刀でよけたが、体勢を崩しそうになった所を新八が素早く間合いをつめた。
ドカッ。
そんな音がした瞬間新八が後ろにひっくり返っていた。腹を押さえ、苦しそうにうずくまっている。
「俺に勝とうなんて100年早いですぜ」
沖田が膝をついて新八の方を向いていた。土方がその様子を見てゆるく笑って言った。
「引き分けだ」
その言葉に沖田が竹刀を土方の方に向け怒鳴る。
「何でだよ!勝っただろ!ひっくり返ったのはくそガキの方でぃ!」
「総悟、足蹴りは剣の試合では反則だろう?」
体制を崩しながらも沖田は新八のみぞおちを思いきり蹴っ飛ばしていた。
「勝てばいいだろぃ」
様子を見ていた隊士の一人が新八に手を貸して起こしている。しかし立ち上がる事が出来ず腹を押さえたまま座っていた。土方は沖田に向かって笑いながら話す。
「それじゃあ、あっちが納得いかない。今日の所は引き分けだ。酒飲ませてやるからそれで我慢しておけ」
その言葉に口をへの字にした沖田を見て土方が昔の沖田を思い出した。
(この顔を見たのは久しぶりだな)
笑う土方の視線を避け沖田が新八の方へ歩み寄り腕をつかんで立たせた。
「ま、いいや。酒飲める事になったから」
沖田は無表情だったが、新八は悔しそうな顔をして沖田の手を払いのけた。その態度に特に表情を変える事もなく沖田はそのままさっさと店へと入っていってしまった。隊士達もめいめい店に入り、残った新八の肩に土方が手を置く。
「で、さっきの賭けは俺の勝ちだな」
不意に言われた言葉に新八がメガネをずらす勢いで声を張り上げた。
「え、何で?!沖田さん下に連れてきましたよ」
「でも最初は一人で降りてきただろ」
「あれはサイダーを取りに」
「でも一人で降りてきた」
反論を力でねじ伏せる様に土方がいちいち新八の言葉を遮る。
「そんなのありか?」
「一週間にしといてやるから」
土方が笑って新八の背中を押して店へと促した。
「そんなーーー!」
しかしその叫びは店の中で隊士達の喧噪にかき消されていった。

それから数日後。朝起きた新八はフウッとため息をついた。いつもの様にお妙が作った怪しげな朝飯をかき込んでお妙に向かって話し始めた。
「姉上、今日から一週間、銀さんの所には行きませんので」
「あら、新ちゃん、いいバイトでも見つけたの?」
お妙の目がきらっと光った様に見えた。
「・・・すいません・・・訳あってただ働きです」
下を向いた新八に今度はお妙の目がギラッと光った。
「タダって言葉はね、新ちゃん。もらう時だけに使うのよ」
「あ、でもほら、銀さんの所でもただ働きみたいなものですか・・・」
新八の悲鳴が朝の空に響いた。

『真選組屯所』
そう書かれた看板の前で新八がため息をついた。銀時には一週間の暇をもらうとしか言わなかった。真選組で一週間働くなどと言ったらどんな事をするか分からなかったからだ。
「失礼します!」
大声を出しながら屯所の中に入って行くと、隊士達が一瞬静かになった。
「土方さんいらっしゃいますか!約束通りただ働きに来ました!」
半ばやけくそで声を張り上げると、周りの隊士達から笑い声が上がった。
「おう、賭けに負けた坊主だね」
首にスカーフを巻いた隊士が近づいてきた。居酒屋で見た顔だった。
「先日はありがとう」
そう言って新八を屯所の中へと連れて行った。
「土方さん、坊主来ましたよ」
新八は自分の呼び名が「坊主」になっている事を初めて意識した。
「志村新八と申します。坊主じゃありません」
顔を赤くして案内してくれた隊士に自己紹介をした。
「ああ、悪いね坊や」
笑いを押し殺して言い直す隊士にもう訂正する気を無くした新八が部屋に入ると、土方と近藤が座っていた。
「よお、ちゃんと来たか」
土方が笑ってタバコを灰皿に押し付けた。あと一本乗せたら崩れそうな程山になっている。
「約束は守ります。で何をするんですか」
その場にいた近藤も笑顔でやり取りを聞いている。
「なに、新人隊士と一緒に雑用だ。おい、光正呼んでこい」
自分を連れてきた隊士が「はい」と言ってその場からいなくなった。新八は部屋の中をきょろきょろと見回していた。
「沖田さんはいらっしゃらないんですか」
何となく発した言葉だったが、近藤と土方は少しびっくりしたような顔をして新八を見た。
「ああ、今日は外回りにいってるはずだがね」
近藤が笑って言った。はず、という言葉を強く言ったという事はどこにいるか分からないという事かな、と新八は軽く笑った。
「気になるか?」
土方の言葉に新八が大きく頭を振った。
「全然」
二人が笑うと入り口から大きな声が聞こえた。
「失礼します」
入り口の方を見ると若い隊士が緊張した面持ちで直立不動で立っていた。
「ああ、来たか。じゃあ坊主、そこにいる光正から仕事教えてもらえ」
土方はそう言って席を立つと近藤に軽く手を挙げて入り口へと歩いていき立っていた光正の肩に手をやる。
「今日から一週間の見習い隊士だ。せいぜいこき使ってやれ」
笑いながらその場を離れた。光正と呼ばれた若い隊士も心得ているらしく大きく「ハイ!」と返事をして新八を促した。
「よろしくね、志村君」
「はい、よろしくお願いします、えっと」
「佐々木光正。光正でいいよ」
少年の笑顔につられて笑って手を出した。
「じゃあ僕も新八で」
若い隊士は新八とそう変わらない年齢に見えた。屯所の廊下を抜け、渡り廊下を歩いて行くと雑多な部屋が見えた。
「ここが隊士達の仮眠室。この辺の掃除からしてもらおうかな」
「はい」
新八は手にした風呂敷から割烹着を取り出した。手際良く着替えぞうきんまで持ってきた新八を見て光正が少し笑った。
「志村・・新八君、似合うねその割烹着」
いつもの様に着替えていた新八が自分の格好を見たあと光正と見比べて顔を真っ赤にした。
「あ。いつもこれで仕事してるから・・・」
光正が少し笑うのをやめてこほんと咳払いした。
「や、うんとじゃあ掃除しようか」
隊士達の寝る部屋は日も当たらず、布団も敷きっぱなしのためどことなく湿っぽい感じがした。新八は布団を外に干し、床を掃いたり拭いたりと手際よく掃除を始めた。
作業が一段落すると、光正が手を止めて新八に声をかけた。
「ちょっと休憩しようか」
「あ、はい」
作品名:鬼の恋 作家名:きくちしげか