二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

『回顧・三人の好奇心・新しい年へ』

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

「ヒカリ聞いてよ。カナったら雪降ってるのにバイクかっ飛ばすのよ。後ろに乗ってる身にもなってよ。怖いったらありゃしないわ」
「へいへい」
 ミドリは眉をひそめて非難し、わたしに同意を求めてくる。カナは肩をすくめてみせる。カナの飛ばし癖は相変わらずだ。わたしは苦笑する。

「そうそう。熱のほうはどう? 下がった?」
 カナがおでこに手を当ててくる。凍えるほどの外気にあたった手はとても冷たい。
「おお、あったかーい」
 そう言ってカナはもう片方の手も当ててくる。やっぱり冷たい。
「カナ……それって測ってることにならないわよ。あんたが暖を取ってどうするのよ」
 ジト目で、ミドリがツッコミを入れてきた。
「大丈夫よ。寒気はないし、熱も下がったみたい」
 わたしは二人に笑ってみせた。
「そっか、良かった! ゲストルームまで来れる? 三人で軽く食べよう!」
「あ、ありがとう。それでお祭りは? ラッカ達は?」
 わたしは二人にタオルを差し出した。
「ミドリとあたしは早めに切り上げてきたんだ。ヒカリのこともあるし――でも良くなったようで安心したよ。ラッカ達は年少組を連れて、まだ街にいる。ヒョウコ達もね」
 髪と衣服を拭きながらカナは言った。
「パン屋のみんなには鈴の実、渡してきたよ。……で、これをヒカリにって渡された」
 カナはショルダーバッグからごそごそと紙袋を取り出した。中に入ってるのは赤い鈴の実だ。
「うわあ……」
 わたしは口元に手を当て、目を丸くした。パン屋のみんなの気持ちが伝わってきてとても嬉しい。思わず目頭が熱くなった。来年もパン屋の仕事、がんばろう!

「こっちが廃工場のみんなからよ」
 そう言ってミドリがカバンから取り出したのはたくさんの赤い鈴の実。たぶんこれは、廃工場の灰羽達全員分の鈴の実。とても大切な意味を持ったそれを私は受け取った。
「ちゃんと渡したからね!」
 ミドリはそう言って笑みを浮かべた。
 ――この一年のひとつの大きな成果。それは廃工場の灰羽達と仲良くなったことだ。

『私、廃工場の灰羽達と仲を戻したいの。たぶんレキもそれを望んでると思う……』
 今年に入ってすぐ、ラッカはいつになく真剣な表情こう切り出してきた。
『ラッカもすっかり一人前ねえ……』
 ラッカの説得を聞いたあと、ネムは満足げにそう言った。
 年長組の意見をとりまとめると、オールドホームではラッカが率先して動いた。一方の廃工場ではミドリとヒョウコさんが。
 そしていろいろな出来事を共に体験し交流を深め、こうして一年が過ぎようとしている。去年までのぎくしゃくした雰囲気はもうどこにもない。
 間違いない。レキは喜んでくれる――

「それでさ。この鈴の実。赤いものばっかりだと思ってる?」
 ミドリの言葉を聞いて鈴の実をよく見ると、赤に混ざって一つ、黄色い鈴の実が。
 ――え? 黄色ってまさか?! ドキリと心臓の音が聞こえた。ミドリはニヤニヤしている。
「あんた、廃工場にはいないタイプだからねえ。すっごく女の子ーって感じで可愛くってさ。熱を上げる男子もいたりするわけよ」
「えっええっ?! だっ……誰なの?!」
 わたしは顔を真っ赤にしてミドリに訊く。胸のドキドキが止まらない。
「知ーらない。それは自分で探しなさいよ。あんたけっこう鈍感だから気付くかどうか」
 ミドリはクスリと笑う。
「ミドリって意地悪ーい」
 思ってることそのまま言って私はふくれっ面をした。けれどもミドリは気分を害したようでもない。そこがミドリらしい。
「ミドリはさ、自分達がいい雰囲気になってるからって調子にのってんだよ。な?」
 カナが乗りだしてきた。
「――!! ヒョウコは今関係ないでしょう!」
「あれえ? あたしは何も言ってないよ?」
 そこでミドリはハッと気付き、ばつが悪そうに顔を背けた。今度はカナがニヤニヤする。ミドリもオールドホームの一員なのかと錯覚するほど自然なやりとりだ。
「べっ……別にあたしは……。とっ、とにかく! ゲストルームで待ってるからね!」
 そう言い残してミドリはそそくさと出て行った。
「逃げた逃げた」
 カナはミドリの後ろ姿を目で追いながら、あははと笑った。
「じゃあヒカリも着替えて降りてきなよ! あたしもすぐ行く!」
 カナはそう言って自室へと向かって行った。
「はあ……」
 鈴の実を両手に、わたしはしばらく突っ立ったままだった。自然と顔がにやけてしまう。まずいな。


◆ ◆ ◆


 オールドホーム西棟、ゲストルーム。ストーブの暖気が心地よい。
 わたしはひとり椅子に座り、厨房のほうを見つめていた。相変わらずカナは料理がからっきしなので、大部分はミドリがやっているようだ。わたしもやろうかと言ったんだけれど、病み上がりだからと二人に制止された。残念。
「お待たせー」
 しばらくして二人が厨房から出てきた。わたし達三人分のマグカップとティーポット。それに、大皿に盛られた料理をプレートに載せて。料理は昨晩の残り物。だけど美味しそうに仕上がっている。

「さ、食べようぜ!」
 カナは食器をテーブルに並べ終え「いただきまーす」と真っ先に食べ始めた。
「お、うまい!」
「そう?」
 表情には出さないけれど、ミドリはかなり嬉しそうだ。わたしも小皿に料理を取り、食べてみる。
「あ、おいしーい!」
 あの冷めた料理をミドリ流においしく仕上げ直している。ミドリもいろいろ頑張っているようだ。
「あれなの? やっぱりヒョウコに手料理食べさせたりしてんの……むぐ」
 茶化すカナの口にミドリは文字どおり手を当てた。
「うっさいわねえ! いいから黙って食べてなさい!」
 仲良くケンカする二人を見ながら私はティーポットを手にし、三人のマグカップに紅茶を注いでいく。
「おっとヒカリ、ちょっと待った!」
 カナが右手をかざして制止してきた。なんだろう。私はきょとんとする。

「クイズです。風邪には何が効くと思う?」
 わたし、風邪は引いてないと思うんだけど……。
「うーん……桃缶……かなあ?」
 昔、レキがそんなことを言ってた気がする。
「いいや! 風邪にはお酒! 親方から聞いたんだけどさ、紅茶にウイスキーとかを入れると身体がぽかぽか暖まるらしいんだ」
「ふうん、なるほど。おいしそうね」
 ミドリは身を乗り出して興味津々の様子だ。
「そこでこれ!」
 カナは上衣のポケットから小さなボトルを取り出し、テーブルにコトンと置いた。ハチミツのような色をしたこれは――
「親方からもらったウイスキー! へへっ。『本当に暖かくなるか、おめえも試してみるか?』なんて言うからさ、さっき頂戴してきたんだ」
「ほんとに?」
「ホントホント」
(いいのかなあ、灰羽がお酒なんて)
 わたしは訝《いぶか》しがる。もっとも興味がないと言えば嘘になる。背伸びをしたいお年頃。それはみんな一緒のようだ。
 カナはウイスキーをトクトクと注いで、砂糖を少々加えてかき混ぜて――できあがったウイスキー入り紅茶を口に含んだ。一口、二口。わたしとミドリはカナが飲む様子をじいっと見つめている。
「んー……ヘンな味ぃ……なんていうのかな、辛い?」
 カナは首をひねった。