二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

巡りあえた奇跡と喜びに感謝します

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

それは、敵を倒して一瞬の隙を見せた被験者の身体へ深々と剣が突き刺さる光景でした。
前と後ろから自分の身体を貫いた剣をそのままに彼は最後の力を振り絞って敵を倒しました。
それが、彼の最後でした。



複製品と仲間たちには、被験者の死を悼んでいる暇はありませんでした。
襲い来る最後の六神将の生き残り、導師の複製品であった彼を倒し、最奥へと続く階段を一歩一歩上っていきます。
漸く辿り着いた先で、かつての師であったヴァンが鎮座していました。
複製品はローレライの鍵を手に、恐ろしく強大な力を持ったヴァンへと挑みかかっていきました。

その後方では、ローレライを解放しようとユリアの子孫である少女が大譜歌の旋律を唇に乗せます。

何度か失敗はしたものの、大譜歌を見事に詠いきると同時に、複製品が手にしたローレライの鍵がヴァンの胸を貫きました。



ヴァンは力尽き、その身体は音素となって消えて風に流されてしまいました。




残るはローレライの解放だけです。
しかしエルドラントが崩壊をはじめ、複製品は仲間たちに速く脱出するように促します。

その中で、仲間の一人ひとりが、必ず生きて帰ってくるようにと言うのです。

想いが溢れて言葉に詰まる複製品に、最後に少女が涙混じりに言いました。



必ず帰ってきて。必ず、必ずよ。待ってるから。ずっと、ずっと…!



少女の心からの叫びに、複製品は微笑みながら返しました。



必ず帰るよ…。約束する。





仲間たちの姿を見届けた後、複製品は鍵を地面へと突き立てました。
足下を中心に譜陣が現れ、光と共に青年の身体を温かく包み込みます。

ゆっくりと降下していく途中、ふと気配を感じて見上げると頭上から被験者の身体が落ちてきました。
彼は冷たくなった被験者の身体を受けとめます。
乾いた血がこびり付いた彼の唇にそっと触れて、血を拭い取ってあげます。
動かなくなってしまった被験者を、複製品は哀しげな表情で見つめていました。

その時、ローレライが現れました。
彼は言いました。





第七音素の意識集合体が紡ぐ言葉を訊きながら、複製品はそっと目を閉じました。





開放された絶大な力により、エルドラントは崩壊しました。






それから二年後。
仲間たちはタタル渓谷へと集まっていました。
度々訪れては、複製品が帰ってくるかもしれないと、崩壊したエルドラントを見つめるのです。

その日は<ルーク・フォン・ファブレ>の成人の儀が執り行われた日でした。
しかし仲間たちは成人の儀には参加せずにタタル渓谷へと来ていたのです。

何故か、複製品の彼が戻ってくるのではないか、という想いがあったからです。

少女が月へと手を差し伸べ、大譜歌を詠います。

最後まで詠いきって仲間たちが帰りかけた時



彼は居ました。



どうして…ここに…?



呆然としながら、少女は問いかけました。
すると赤毛の青年は、唇に笑みを浮かべて答えました。



ここからなら、ホドを見渡せる。それに―――…約束、してたからな



少女はその言葉に、涙を流しました。
風で煽られて覗く翡翠の瞳が、優しく細められ、仲間たちの姿を映し出していました。





でも俺は<ルーク>じゃない。




それはとても惨酷な現実でした。





生還した<ルーク・フォン・ファブレ>はかつての被験者<アッシュ>でもなく、また、複製品<ルーク>でもありませんでした。
そして生還した<ルーク・フォン・ファブレ>は、生きる事も死ぬ事も望まずに、生を全うしていました。

英雄とたたえられる年月が続く中で、確実に衰弱していった彼は、ある日、仲間へこう告げました。



<ルーク・フォン・ファブレ>死ぬと同時に、俺の中にある記憶だけとなってしまったルークも漸く死を迎える。
俺が死んだ時には、あのタタル渓谷の丘の上に墓標を二つ立てて欲しい。
生き抜いた証を、あの場所に残して欲しい…。



数日後、彼は眠るように息を引き取りました。
彼の遺言通り、墓標は二つ、タタル渓谷の丘へ建てられました。

生還を果たした英雄の死を誰もが嘆きました。

しかしその中で、金髪の青年は墓標を前に呟いたのです。



きっとこいつらは生まれ変わって、また俺たちの前に姿を見せてくれるよ。

今度こそ、その命を半端に終わらせる事も無く、な。

俺は信じているよ。


清々しさを持った笑顔で彼は言い、そしてそれを最後に、かつて旅を共にした仲間たちが再び集うことはありませんでした。










―――かくも過酷で惨酷は現実を生き抜いた、被験者と複製品とその仲間たちに纏わるお話は、こうして今も
語り継がれているのです。」



老婆は長い長い物語を語り終えて、息を吐いた。
孫はキラキラと目を輝かせて「はわぁ…」と声を漏らした後、興奮した様子でもう一人へと話しかけている。
話しかけられた方は眉を顰めて、近づけられた顔を押し退ける。

「顔が近いんだよっ!」
「何だよ、そんくらい気にするなって!」
「気にするだろう普通は!同じ顔が傍にあったら気持ち悪い!」
「それって俺に対して失礼じゃないか?!」
「知るかそんな事!」

ぎゃあぎゃあと喧嘩を始めた双子に、彼女は苦笑を滲ませながら、中断させるように手を叩いた。

「ほら、喧嘩をしていないで、お茶を淹れて来てくれるかしら」

そう頼むと、パッと双子の片割れから離れた一人が

「そしたらアレ、唄ってくれよ!」
「えぇ、良いわよ。約束ね」
「よっしゃ、じゃあ淹れてくる!」

元気良く家の中へと消えた孫を見送り、その場から動かないもう一人の孫に話しかけた。

「あの子だけでは不安だから、手伝ってあげてくれかしら」
「…わかった」

仏頂面で頷いてパタパタと駆けて行く。

双子が見えなくなってから、老婆は青い空を見上げながら、静かに謳を詠う。





娘から老婆へ子供が生まれたと連絡が入ったのは七年前だった。
双子が生まれたのだと、知らせを受けそして名付け親になって欲しいと娘夫婦から同時に頼まれた。

娘にも幼い頃から話して聞かせていた物語。

老婆は、かつて自分が旅を共にしてきていた赤毛の青年に纏わる話を、娘にもよく話して聞かせていたのだ。



病室へと入ると、二重に聞こえてくる赤ん坊の泣く声。

娘の元へ行くと、その腕の中には確かに二人の赤ん坊が抱かれていた。

赤ん坊を見て、老婆は絶句した。

娘夫婦は共に茶髪に茶眼という割と有り触れた色素を宿していた。
それなのに、生まれてきた赤ん坊二人は、産毛にも関わらず見事な赤色をしていたのだ。
母親にあやされていた赤ん坊は漸く泣き止み、閉じていた瞼を持ち上げてその瞳を覗かせた。
その瞳は透き通った翡翠の色をしていた。

老婆は口元を手で押さえ、喘ぐ事しか出来なかった。
頬を伝う涙の温かさに、目の前に在る命の奇跡に巡り合えた事に只管、感謝した。



かつて、もう何十年も前になるあの時に金髪の青年―ガイが零した言葉が思い起こされる。





『きっとこいつらは生まれ変わって、また俺たちの前に姿を見せてくれるよ。