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涼宮ハルヒの憂鬱 ~忘れられた時~

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俺はハルヒとゆうの間で立ち上がり、ハルヒの方を向いた。ちょうど、遮る形になる。ハルヒの眼光をもろに受ける。
「どーっこが普通の子なのよ。ちゃんと調べておいたわよ!円周率を暗算で凄いとこまでといて、そんでもってN○SAのスーパコンピューターで10年は掛かる計算を一瞬で解いちゃうそうじゃない」
「どこのどいつが流した匿名情報だそりゃ。後者の話は訊いたことがない」
「キョン君、いいよ」
…何と。
恐る恐る後ろを振り向くと何とそこには今日の太陽のような笑顔を灯した日乃がいた。
「おいおい、こいつの仲間に加わったりなんかしたら、この間のバニーガールみたいな妙な格好をさせられるかもしれないんだぞ、それでも良いのか?」
「あんたに訊いてない!あたしはゆうちゃんに訊いてるの。イェス・オア・ノーよ」
イェス・オア・ノーて、おまえが言うと、「イェス・オア・イェス」にきこえる。
それは確かに、団員に日乃が加わればそれはそれで部室に行くときの楽しみが出来るわけだが。それに、バニーガールの日乃も見てみたいとも思う。
「それじゃ、喜んでイェスだね。よろしく、涼宮さん」
喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか。とうとう日乃までこのSOS団に加わってしまった。
「話が分かる子で良かったわ。よろしく、ゆうちゃん」

「改めて紹介するわ。新団員の、ゆうちゃんよ」
「日乃ゆう。ゆうでいいよ。よろしくね」
「あっちにいる本を読んでる眼鏡っ娘が有希で、向こうでお茶汲んでるのがみくるちゃん。んでそこのが古泉君と、知ってるだろうけどこいつがキョン」
何度か訊いたフレーズのメンバー紹介。となるとこのSOS団もメンバーが揃うわけだ。これで、ハルヒの身の丈に合わない野望が達成されてしまった訳だ。
例によって団員達が挨拶を済ませていっている。
「そういうわけで六人揃ったことだし、これで学校としても文句ないわよねえ」
ハルヒが何か言っている。
「いえー、SOS団、いよいよベールを脱ぐときが来たわよ。みんな、一丸となってがんばっていきまっしょー!」
何がベールだ。
ふと気付くと長門はまた定位置に戻ってハードカバーの続きに挑戦している。勝手にメンバーに入れられちまってるけど、いいのか、お前。

ハルヒは設立手続きしに行くといって部室を飛び出し、ゆうは対照的に退部手続きにいくと言っていたが、妙に楽しそうだった。朝比奈さんと古泉が用事があると帰ってしまったので、部室には俺と長門有希だけが残された。

途中過程省略

「うわ、何ですかこれ?」
もみ合っている俺たちに声をかけたのは、入り口付近で鞄を片手に立ち尽くしている古泉一樹だった。
朝比奈さんの開いた胸元に手を突っ込もうとしているハルヒと、その手を握ってとめようとしている俺と、ぶるぶる震えているメイド服の朝比奈さんと、裸眼で平然と読書中の長門を興味深そうに眺めて、
「何の催しですか?」
「古泉くん、いいところに来たね。みんなでみくるちゃんにイタズラしましょう」
何てこと言い出すんだ。
古泉は口元だけでフッと笑った。同意するようならこいつも敵に回さなければならん。「遠慮しておきましょう。後が怖そうだ」
鞄をテーブルに置いて壁に立てかけてあったパイプ椅子を組み立てる。
「見学だけでもいいですか?」
足を組んで座りながら面白そうな顔で俺を見やがる。
「お気になさらず、どうぞ続きを」
違うって、俺は襲う方じゃなくて助けに入ってる方だっつーの。
「うわ、何ですかこれ?」
そんな所に古泉と同じセリフを口にしながらゆうが入ってきた。
「日乃、お前も何か言ってやってくれないか?」
「キョン、余計なことを言わない!みんなみくるちゃんにイタズラしたいのは同じはずよ」
いや、おれは否定しないが全員そうとは言えないだろ。
「ははは…。涼宮さん、それ以上は止めた方が良いよ…。」
気を遣ってか入り口のドアを素早く閉じたゆうは引きつった表情でそういった。

途中過程省略

休みの日に朝九時集合だと、ふざけんな。
とか思いながらも自転車をこぎこぎ駅前に向かっている自分が我ながら情けない。
北口駅はこの市内の中心部に位置する私鉄のターミナルジャンクションということもあって、休みになると駅前はヒマな若者たちでごった返す。そのほとんどは市内からもっとも大きな都市部に出て行くお出かけ組、駅周辺には大きなデパート以外遊ぶ所なんかない。それでもどこから湧いたのかと思うほどの人混みには、いつものこの大量の人間一人一人にそれぞれ人生ってのがあるんだよなあと考えさせられる。
シャッターの閉まった銀行の前に不法駐輪(すまん)して北側の改札出口に俺が到着したのが九時五分前。すでに全員が雁首を揃えていた。
「遅い。罰金」
顔をあわせるやハルヒは言った。
「九時には間に合ってるだろ」
「たとえ遅れなくとも一番最後に来た奴は罰金なの。それがあたしたちのルールよ」
「初耳だが」
「今決めたからね」
裾がやたら長いロゴTシャツとニー丈デニムスカートのハルヒは晴れやかな表情で、
「だから全員にお茶おごること」
カジュアルな格好で両手を腰に当てているハルヒは、教室で仏頂面しているときの百倍は取っつきやすい雰囲気だった。うやむやのうちに俺はうなずかされてしまい、とりあえず今日の行動予定を決めましょうというハルヒの言葉に従って喫茶店へと向かった。
白いノースリーブワンピースに水色のカーディガンを羽織った朝比奈さんはバレッタで後ろの髪をまとめていて、歩くたびに髪がぴょこぴょこゆれるのがとてつもなく可愛い。いいとこの小さいお嬢さんが背伸びして大人っぽい格好をしているような微笑ましさである。手に提げたポーチもオシャレっぽい。
日乃ゆうは、意外にもオシャレで、タータンチェックのネクタイをしめたカッターシャツのうえに、胸の部分の開いた黒いベストでまとめていた。七部あたりのデニムパンツに、涼しげなサンダルタイプのハイヒールは、性格の中にある大人っぽさと爽快さを表しているようにも見える。ちなみにポニーテールはそのまま、頭にはふっくらとした帽子が載っていた。
古泉はピンクのワイシャツにブラウンのジャケットスーツ、えんじ色のネクタイまでしめているというカッチリしたスタイルで俺の横に並んでいる。うっとうしいことだが様になっている。俺より背が高いし。
一同の最後尾には見慣れたセーラー服を着た長門有希が無音でついてくる。なんかもう完全にSOS団の一員になっているが、本当は文芸部員のはずじゃなかったのか。あの日、閑散としきったマンションの一室で理解不能な話を聞かされた手前、その無表情ぶりがなおのこと気にかかる。しかしなんで休みの日まで制服着てるんだ。

途中過程省略

結局のところ、成果もへったくれもあるはずがなく、いたずらに時間と金を無駄にしただけでこの日の野外活動は終わった。
「疲れました。涼宮さん、ものすごい早足でどんどん歩いていくんだもの。ついていくのがやっと」
別れ際になって朝比奈さんが言って息をついた。それから背伸びをして俺の耳元に唇を近づけ、「今日は話を聞いてくれてありがとう」
すぐ後ろに下がって照れて笑う。
じゃ、と会釈して朝比奈さんは立ち去った。古泉が俺の肩を叩き、