Days / after my life
「帝人君は酷いと思う」
俺がふてくされてそう言うのを、帝人君は助手席のシートを倒してベッドにしながら聞いていた。ぱちぱちと瞬きをした後で、僕がですか?と首をかしげて見せる。
「だって、あのガキが俺を殺そうとしたとき、帝人君気付いてたじゃない」
「僕が気付かない理由がないでしょう。だって僕を殺しに来たんですよ、彼」
「助けてくれるかと思ったのにさ」
「ああ、ってことは、青葉君の実力はちゃんと認めるんですね」
意外です、プライド高そうなのに。そんな可愛くないことを言う帝人君に、俺はますますふてくされて頬をふくらました。
確かに立ち回りくらいなら負けなかったと思うけど、持っていたナイフを相手に奪い取られたら俺の負けだってことが解るくらいには、俺だって喧嘩は場数を踏んでいる。っていうか、人殺しをするためにそれなりの訓練をしているであろう相手に、どうやって勝てって言うのか分からない。
「なんで見てたのさ」
「面白そうだったからです」
「・・・帝人君ってほんっと酷い」
面白そうで死にかけたらたまらないよ!ましてやあんな気に入らない嫌なガキに殺されるくらいなら、いっそ自殺のほうがすこしはましだ。そのくらい嫌だ。
「何が一番酷いってさあ、あのガキの言ってたことがほんとにその通りだってところだよね」
「何がですか」
「俺がここで死んでいたら、帝人君はすぐ俺を忘れるよねって話」
「ああ」
帝人君は大きな目を見開いて、寝そべったまま俺を見上げてまじまじと顔を見つめてきた。何だろうと思う間もなく、臨也さんって、と声が掛けられ、ついでに手が伸びる。顔に向かって伸びてきたから、また撫でてくれるんじゃないかと淡い期待を胸に顔を傾けたなら、なでるどころか軽いデコピンが入った。
何なんだよ!
「僕思うんですけど、臨也さんなら死んでも生き返るから大丈夫ですよ」
「いやいやいや、無理だからね?普通は死んだら生き返れないからね?」
「だって過去の実績がありますし」
「ああそりゃね!でも無理だから!あんな奇跡はもう2度と起こらないと思うよ俺!」
なんだかいろいろごまかされた気分でヤケ気味に受け答えをする俺に、帝人君は小さく、気が抜けたように笑って見せた。
「実を言うと試しました」
一瞬で、それまでの空気をぬぐい去る言葉だ。
「・・・俺を?」
「それもあります。自分の実力以上の人間を相手に、臨也さんが僕を守ってくれるかなあと」
「あのさあ、そんな分かり切ったこと試してどうするのさ!」
俺が君に恋してるって、指摘をしたのは君だったと思うんだけどね?俺の方が呆れてみせたら、そうですね、と帝人君は当たり前のように頷く。
「でも一番は、しいて言うなら、覚悟を計ったのかな」
「君についていく覚悟なら、拾われた日からとっくにあるけど?」
だからそんなものをいまさら、と続けかけた俺の言葉を遮って、いいえ、と帝人君は小さく、そしていたずらをたくらんだ子供のように、にやりと笑って見せた。
「僕の、覚悟のほうです」
おかげで楽しいことになりそうですよ、と帝人君は、もう一度手を伸ばして俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
帝人君の覚悟?
俺はわけがわからなくて、ただ首をかしげる。
帝人君が覚悟をするようなことなんて、何かあっただろうか。考えても考えても、俺には分かりそうになかった。
作品名:Days / after my life 作家名:夏野