レンリン詰め合わせ
バスケットシューズの固有の音が鳴り響く体育館。今はもうBGMの様に流れるこの音々が心地良く感じられるのは、己が相当バスケットボールたるものに浸っている事の証だろうか。あの茶色のボールが弾む音。刹那だけ静まる館内に又鼓動が高鳴る。自然と緩まる口元は、前述の云々なんて関係無い、勝利への確信。
宙に掲げた人差し指と同刻、手元のボールは奇麗な弧を描いてリングへと降りた。
「やっべー!やっぱすげえよお前レン!」
「あそこでスリーポイントとか!普通やるか!?」
「普通やるも何もあそこでやんなきゃ勝てなかっただろ。」
「今の場面じゃスリーしかなかったけどさー」
「流石我が校が誇るイケメンPG鏡音レンくん」
「性格はヘタレだと思うんだけどな…」
「うっせー。ヘタレじゃねえし!」
「しっかし、これじゃレンファン増えんぞ。…もう聞こえてきたし」
「レン君かっこいいーー!!ってほらよ、人気者も大変だな」
「あーまじ俺恨むつか妬むつかマジハゲろお前!なんでそんなお前ばっか!」
部活内で行われた紅白戦の終わりを告げるホイッスルは先刻上がったばかりで。終了の合図と共に俺の元へと駆け寄って来たそいつらは口々にプレイを褒めてくれながら、頭を粗雑に撫でたりと勝利の感傷を噛み締めて居る。中には納得いかない科白だとかツッコミ所満載なセリフもあったけれど、いつもの俺なら間違いなく余す処無くツッコむんだけれど生憎俺も、勝利の感傷に浸っているという、訳で。例え練習でも勝てることは嬉しい。それが好きなバスケだったら尚更だ。マネジに貰ったタオルで首筋を拭きながら未だ歓声を上げ盛り上がりを見せる味方陣を見遣る。こういう瞬間、部活に入ってて良かったとつくづく実感する。こんな感動味わえるのはココだけだと思うし、この感動は何度味わっても色褪せない俺達だけの記憶。
然し束の間の感銘も余所に、時折起こる問題が発生した。背後から聞こえる黄色い歓声は敢えてスルーさせて頂いていたので(つかほんと別に故意的にモテたい訳じゃないんだけど…な)自然と入口に背を向ける形だったから気付かなかった俺がいけないんだろうけど!疲れた身体を暫しの間、朦朧とした意識を適度に保ち休んで居れば続いて野郎共の野太い声。……嗚呼、嫌な予感が的中しそうだ。つかここまで来ればぜってー的中してる。面を顰めた俺が振りかえった先、入口付近に佇んで居たのは
「あ、レン!」
と輝かしい笑顔を放ってキラキラ効果音と花とハートを飛ばすかの如く緩やかに手を振っているリンで。(……ああ、…)疲れた身体にそのスマイルは効果抜群過ぎるが、幾分コイツは己の可愛さを自覚していないから手に負えない。手持ちを確認する処、差し入れをしに来てくれたらしい彼女に仕方なく笑みを浮かべて手を振り返しつつリンに近寄る。勿論取り巻きには数人の部員。邪魔だから遠慮無しにボールを脳天直下させておく俺。グッジョブ。
「リン」
「お疲れ様ー。さっきの試合見てたよ、最後の、あれ!」
「スリーポイント?」
「そう、それ!すっごいかっこよかった!もー、リンちょーときめいちゃったもん!」
「…さんきゅ、」
「あ、これ差し入れね。…えといちおーレンに持ってきたんだけど、」
「え、リンちゃんひどい!俺には無いワケ!?」
「リンちゃんの為に頑張ったのに…!」
「てめえずっこいぞレン!マジお前放課後裏庭来いし!」
「うん、だからみんなで食べてもらえればなーって」
「よっしゃああ!!」
可愛らしいレモンイエローの袋から取り出したのはタッパーに入った蜂蜜漬けレモン。リン特製のそれは、俺の、大好物、なのに
(なんでお前らが食うんだよ!)
それもそれ俺の為に作ってきたやつだろ!不機嫌丸出しに眉間に皺寄せてる俺を余所に奴らは小躍りでさっさと物を取って行く。仕方無いから、つか放っておくと品切れという最悪な状況にも追い込まれかねないので吐息をついてタッパーから一つ摘まんだ先、面を上げればリンの笑顔。…やべー超癒される、んですけど。
何時もの様に緩やかに可愛らしく笑顔を浮かべるリンと(シスコン?惚気んな?今更だっつの!)
蜂蜜レモンに集るむさ苦しさと下心全開の部員達監督のもう休憩だぞっていうドスの効いた声
未だ鳴り響くバスケットシューズのきゅきゅ、って音
声が透きとおる体育館
鏡音レン、バスケ部所属、 俺の青春こんなんです。