レンリン詰め合わせ
へらへら笑う横顔も、色んなヤツに囲まれて楽しげに歪む頬さえも何もかも俺のものになってしまえばこれ程簡単なことも無い。
「あのね」
小鳥の囀りの様に歌う様に紡がれる言葉は彼女の力を以てすれば、一度も違えずに美しいものへと変化する。逐一一々、言葉の選択の仕方が誠に綺麗な人種なのである。単なる日常生活に於ける会話を創作行為と勘違いしているのでないかと暫し沈思する程のそれだ。俺は頬杖を掻いて取り敢えず聞き入る。
然しよくもまあそんなに話題がひっきり無しに出てくるなとはよく思うけれど、逆に言うと俺自身が自ら話題提供に打って出るタイプでも無いからちょうど良いのかもしれない。だからバランスは取れている、ともよく思う。故に…少しだけすれ違いがあるとしたら、その一因は全てこちらにあるはずだ。
「メールが、」
静穏にも弾み良く繋がれていく科白に心地よさを感じて、僅かだけ眠気が誘われた。朦朧とする意識の中には既に彼女との会話も入ってきておらず、いやに捻くれている自分の阿呆らしい思考だけがただただ旋回していた。嫉妬されると愛されているってかんじるからなんだよ、誰が言っていたかまでは覚えていないが確かに今日耳にしたフレーズが延々と反芻される。眠い。ああ、そうか、確信犯なんだろう。確信犯、いやそれにしても眠い。目前の彼女は俺の様子に気づくことあらず、熱弁を奮っていた。いつの間にか話がどこぞのファッションブランドだなんて年頃の少女らしいものに逸れている。世俗的な光景だが下らなさを感じた試しはない。
でも、とかくして、俺は何となくそのフレーズがわかる気がした。通俗的には嫉妬している方が愛情深いとされている機会が多い気がするが、恐らく反対だ。少なくとも、俺は反対だ。嫉妬されると愛されてるように感じる。愛情をより欲しているのは自分。
うつらうつらとあと数歩で夢の世界、へという所。漸くこちらに目を向けたリンの手刀が脳天直下することにより、意識は無事帰還した。