ロング・グッドバイ
平和島静雄の荒々しい、暴力。
(やっぱりシズちゃん絡みか)
最近頓に増えた彼との喧嘩のことを思い出し、それではこの状況も、彼にやられたからなのだろうと推測する。それにしたら、まだ死んでいないのが不思議なくらいだ。
……そうして目を閉じていても分かるこのにおいと先ほど一瞬だけ視界に入った天井の独特の色合いは、紛うことなき学校の保健室である。
(まさか、仮眠場所として以外に、ここに世話になる日が来るとは思わなかったな。……簡単な怪我なら自分や新羅の処理で足りるし、消毒液さえ振りかければ大抵のものは自然治癒するし)
ベッドに付随する、白いシーツはいかにも、といった風に安っぽくてごわごわしている。だけれどその一応の清潔さが、窓から送風される五限はじめの空気のあたたまり方が、折原をこの場所に留まりおくことを決断させた。
やれやれ、と思ってまぶただけ開いてみた瞬間、だけれど折原は、なんだか奇妙なものを見た。
(え)
(いたのか、シズちゃん)
隣のベッドで今まさに身動きをはじめようとしていたのは、遠くから見ても目立つ脱色された金髪と、怒りさえ発露しなければ端正で繊細、と褒めてやってもいいような見慣れた顔。折原は過去、同級生である新羅に「静雄はちょっと目立っちゃうくらいかっこいい顔だけど、臨也は逆に目立たないきれいさが無個性を印象付けるよねえ」という褒め言葉か何なのかよく分からない台詞を吐かれたことがあるのだが(そしてそれは自分の目的としては願ってもないカテゴライズだと思いもしたのだが)、平和島の外見にはたしかに、人を惹きつける華のようなものがあるとは理解している。
分からないようにシーツをそうっと持ち上げてかぶり直しながら、折原は、平和島の動向を見定める。無論これには、罠のような意味合いもある。女子供や怪我人には暴力をふるわない、と以前公言していた平和島に尚保証をかける意味で、常に制服の袖に仕込んだナイフの感触もしっかりと確かめ、卑怯さをも許容する折原はまだ意識を戻していない演技を続けはじめた。
そうして対する平和島は――