ひわひわのお話。
結局、あの後オーナーが関西店に連絡して、
次の休みに関西店メンバーも全員遊びに来ることになった。
総勢10人………いや、8人と2匹での海。
楽しみでもあったけど、不安の方が大きかった。
あんずさんに教えてもらった策が、通用するのだろうか。
バレて、辞めさせられたりしないだろうか。
悩みすぎて寝られなかったし、テンションも上がらなかった。
「どうしたりせは?元気ないんじゃないか?」
『あ、いや…そんなことない!………です』
「やっぱり…来たくなかったのか?」
『違います!そういうわけじゃ…ないんですけど…』
「泳げないなら泳げないって、素直に言っちゃえばー?」
『だーからー!俺は泳げるつってんだろ!!』
「フッ…どーだか。」
『大体、お前は朝っぱらからコーラの飲みすぎなんだよ!』
「コーラの摂取量に制限なんてないんだから別にいいだろ!?」
『物事には限度ってものがあるんだよ!!』
「うーん、今日も平和で私は嬉しいです。」
「これは平和…なのか…?」
「日常の風景じゃないですか。」
「そう言われればそうか。まぁ、今日は楽しもう!」
海まで向かう車の中は、結局amuと言い合いになって悩む暇もなかった。
少しは気が紛れたし、緊張も多少解れたかもしれない。
けれど、いざ海に着いて、着替えることになると、やっぱりドキドキする。
「おーい、みんな着替えたかー?」
「オーナー…黒っ!!」
「うるさい!俺は地黒なんだよ!!」
「あさぎさんは…泳がないんですか……?」
「焼けたくないですから。ここで羊と遊んでます。」
「メェー」
「夏に羊って…暑苦しいやん……」
「それより邪魔なナマモノがここにいますけどね…」
「だんごむしー!おっきなだんごむしー!!」
「あれ?そ〜ま君…りせはは?」
「そういやいないな…どこ行ったんだ?」
「あいつ、まさかこの後に及んで逃げ―――…」
『てねーよ!!』
出ていくと、案の定もう全員着替え終わっていた。
海に入らないあさぎさんと2匹以外は当然海パンだ。
そして、みんなの視線は当然俺に突き刺さる。
「りせは、お前なんでパーカーなんか着てんだよ?」
『な…なんでだって良いだろ!』
「服着てると、重くて泳ぎにくくないか?」
『別に俺泳がないし。』
「あ!やっぱりお前泳げないんだろ!!」
『だから違うって!!泳がないけど、海には来たかったんだよ!!』
「・・・・・・何か脱げない理由でもあるん?」
『えっ?!』
一度はやり過ごしたはずのやりとりを、
ジギルが何気なく呟いた言葉で引き戻される。
amuみたいに喧嘩腰で冗談みたいに返せないから、反応に困る。
『えっ、と…それは……』
マズイ。
完全に全員俺がパーカー着てる理由に注目が集まってる。
「前々から男にしては線が細いって思ってたけど…
りせはって…もしかして………」
今度こそバレるかもしれない。
やっぱり、来なければ良かったのかもしれない。
今更遅いとわかっていても、後悔だけが頭の中を駆け巡る。
『あ、の…俺っ………』
怖くて、顔が上げられない。
正面を向いて、真実を告げるか。
何気ない顔で、嘘を貫くか。
どちらも、自分には出来そうもない。
「私は、理由知ってますけどね。」
『―――っ!?』
響いたのは、またあんずさんの声。
また、肩にポンと手が置かれる。
「えっ?」
「マジで?!」
「それは聞いてみたいな。」
視線が合うと、あんずさんはにっこりと笑う。
展開が読めないから、また怖くなる。
女だと、バラされてしまうんじゃないか?
それとも、みんなを納得させられるだけの策があるのか?
敵なのか。
味方なのか。
自分の身がこの先どうなるかわからないから、怖くなる。
できるなら、まだこうして、みんなといたい。
「りせはがパーカーを脱げない理由はですね…」
信じたい。
でも、怖い。
みんなの視線が、私とあんずさんに注がれている。
「とてもじゃないけどみんなに見せられない痕が残ってるからですよ…ね?」
『バッ―――!!』
言おうとして、あんずさんの視線がそれを制した。
みんなの目の色が、好奇の色に変わる。
「まったく…いくら男だからってもうちょっと気にしろって言ったのに…」
『やっ、やだなあんずさん何言って…』
「へぇ…そいつは気になるね。で、何の痕?」
「知りたいですか?」
「タヌ知りたーい!」
「ナマモノは黙ってダンゴムシと戯れてろ。」
「ふめっ!!!」
タヌを追い払って、あんずさんは咳払いをする。
また、視線が集中する。
どうなるのか、1秒後の展開すら読めない。
「見た時は本当にびっくりしましたよ。
あっちこっち点々と赤い痕がついてるんですから…ねぇ?」
『ちょっ…おい!!』
「あんずさん、見たんですか?!」
「りせは…お前………」
「あんまりにもすごいことになってたから、隠すように私が言ったんです。」
「で、何の痕なん…?」
「それはですね………」
見えるはずがないのに、みんなの視線が
俺のパーカーの下に向かっているのがわかった。
バレないようにサポーターもしているけれど、
それでも心臓の音が聴こえてきそうなくらいに脈打つのが早かった。
みんなが、あんずさんの次の言葉を待っている。