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ブギーマンはうたえない〈3〉

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「? 今は痛くないのか?」
「津軽がいるから、痛くないよ」


新羅は自分の胸を指しながら穏やかに告げる。
さみしいのに、さみしくない。新羅は変なことを言うなと津軽は考えあぐねて眉を寄せていた。


「そうだね…。平和島静雄、彼の過去をよく知らない俺が言うのもなんだけど。でもずっとさみしかったって状態じゃなかったと思うよ。……少なくともその弟の幽君といる時は今の俺と一緒でさみしくなかったんじゃない?」
「そう、か…」
「うん」
「……そうだといい、な。……今も、シズオがさみしくなければいい…」
「!…」


津軽の呟きに、新羅はそれには答えを与えることができなかった。
平和島静雄がどんな状態かなんて、新羅が彼に告げることはできない。だが確かに言えることは彼は今さみしいなどとは感じていない、いや感じることすらできないであろうことか。


「……」


でもそれを口にすることもなく、かわりに新羅はベッドの上にあった一冊の本を手に取った。昨日劇場を出てからそのまま調査に向かったので、寝てしまったときにベッドに放られてしまったのだろう。公演の台本であるそれを、あらすじは知っているが手持ち無沙汰にぺらと頁をひとつめくる。


「……まるで彼はブギーマンみたいだね」
「え?」
「ブギーマン。この話の主人公の怪物。――誰かのためにと努力するのにその上辺だけで誤解されて、周りの人間は彼を理解しない。だから独りでいるさみしい怪物。まるで静雄君が主人公みたいだ」
「あ、ほんとだ」
「でも知ってるかい? 最後には怪物にも彼を理解してくれる友達ができるんだ。だから、ねぇきっと…静雄君もそうだと信じたいよね」
「……、とも、だち…」


友達という単語に津軽はそれを初めて手にしたものだというようにそっと口の中で転がした。


(シズオがさみしくないように。シズオがおれってことは、おれにもそんなひとが現れるんだろうか……)


それと同時に思い出されるのは、夢の最後に聴こえた誰かの優しい歌声。
さみしさではない。酷くあたたかく、……そして懐かしい。
この感情が例え静雄のものであったとしても、津軽はもう一度あの歌声を聴いてみたいとせつせつと思った。