ツイッターお題より
2.ヘスアド
【ことかたに問題です。「バイク」「宝箱」「ワイン」の3つの言葉を含め、5ツイート以内で恋愛小説を書きなさい。 http://shindanmaker.com/5279】より
バイクに跨って朗らかに微笑む人物を前に、アドルフはただただ目を瞬いた。
それなりの轟音と共に現れて、まあ、それが見覚えのありすぎるバイクとヘルメットと体格だったから聞き慣れたその轟音に驚いたわけではない。
驚きの内容と言えば、それがつい1・2時間前には離れたところにいたはずの人物で、電話越しに話した限りではこちらに来るだとか会う約束をしただとか、そんなことがなかったからなのだが。
「アドルフ」
にこりと微笑む顔に、浮かんだ疑問をそのままぶつける。
「どうしたんだ、いきなり、いったい」
「ああ、」
そして積んだ荷物をごそごそとし始めたヘスラーは、やがて細長い包みを取り出した。
細い筒状の部分をつかんだその下は、柔らかな曲線で膨らみをもたせている。
材質は、ガラス。
青い、僅かに透き通る中には、とぷんと液体が揺れているのが分かる。
「一緒に飲もうかと思って」
まるで宝箱の中身を引っ繰り返したように、きらきらと光る星と三日月をあしらったデザインのそれは、紛れもなくワインボトルだった。
「電話の直後に店で見つけて。アドルフを連想したら、いてもたってもいられなくなった」
僅かに照れたように微笑んで、掲げ持ったボトルを傾ける。
お前にぴったりだろうと示すそれは「Night Music」と書かれた銀色のラベルが貼られていて、ベートーヴェンの有名な曲の楽譜の一節が印字されている。
軽快なその曲が頭の中に一瞬過って、それから少し前にそれを弾いて聴かせたことを思い出す。
自分ほどには音楽に詳しくも興味もないはずのヘスラーが、そんな小さな出来事を大切にしていたのかもしれないのだと思い至り、アドルフもまた微笑んだ。
「ああいいな、今から飲もう」
2010.10.11