触れる魔法
セフィロスさんはすっと手を伸ばして、俺の頬の辺りまで指先を近付けてきた。
その長い指先は俺の頬に触れる寸前で、俺の視界から消えた。
「……他の奴らには……」
セフィロスさんの手はきつく握りしめられていて、しかも少し震えてるように見えた。
「……セフィロスさん!」
俺は思わずセフィロスさんの手を握っていた。
「クラウド……?」
驚いたようなセフィロスさんの声に俺は慌てて手を離した。
「ごめんなさいっ!」
俺が触ったところでどうにかなるものでもないのに。
セフィロスさんの考えなんて分かるわけないし、気持ちなんて読み取れるわけもない。
でも、何故か触れずにはいられなかった。
その力のこもった手を解いてあげたかった。
俺にその力がなかったとしても。
「謝ることはない。さあ、もう休むといい。俺もそろそろ……」
「どうして!」
俺はセフィロスさんの言葉を遮った。
「どうして……?」
「はっきり言ってくれないんですか? 俺、セフィロスさんみたいに頭良くないですし、鋭くないです」
「それは……」
また、セフィロスさんは言葉を飲み込む。
俺に言いたくないのか、俺に言っても無駄だと思っているのか、もう……。
「俺のことなんて、どうでもいいんですか?」
前から思っていたこと。
好きだと言われたけど、それきり何も言われなかった今日までの期間、俺は日に日にその思いが強くなっていた。
セフィロスさんは大きく息を吐き出してから、俺の手を掴んだ。
少しヒヤッとした指先に俺は身体を揺らしたが、セフィロスさんは強く掴んだままだ。
俺、こんなに強くセフィロスさんに触れられたの初めてだな、と気付いてしまって、俺の鼓動は急加速している。
「勘違いするのは勝手だがな、俺の思いと正反対に勘違いされては困る」
「反対……?」
「俺はクラウドのことをどうでもいいなどと思ったことはない」
「……だったら、どうして!」
全部言ってくれないのか。
俺に伝えるのに、何か問題があるのだろうか。
「……全部言わないとダメらしいな……」
セフィロスさんははぁと大きく息を吐き出してから、そうだな……、と何か考えているようで、足元を見つめている。いつもより、まばたきの回数が多いみたい。
もしかして……照れ……てる?
い、いや、セフィロスさんが照れるなんてあり得ない、あり得ない。
ましてや、俺に物を言うだけなのに。
「お前自身が狙われてる、っていう意味はわかったか?」
セフィロスさんは俺に視線を戻して、尋ねてきた。
俺は首を横に振って、分かってないことを示す。
俺自身が狙われてて、命のことじゃない、となると何が残ってるんだ?
「……喰われるかもしれんと言い換えたら、わかるか?」
……喰われる……?
そういえば、ザックスも同じようなこと言ってたっけ……。確か、俺がセフィロスさんに喰われてるとかどうとか……。
「えーっ!」
俺はセフィロスさんの言わんとしてたことに思い至って、声を上げてしまった。
「お、俺、そんな標的に……?」
「間違いなく狙われてる。だから、気をつけろ、と言ったんだ」
気をつけろって言われても、何をどう気をつけたらいいのか……。
怪しい奴についていかないとか?
子供じゃあるまいし。
「俺やザックスの名前を持ち出されてもついて行くなよ」
あ、その手があったか……。
セフィロスさんの言葉に俺は俯いた。
今の俺だったら、セフィロスさんが重傷とか言われたらついて行きかねないもんな……。
「クラウド……」
先ほど触れそうで触れなかったセフィロスさんの指先が俺の頬に触れた。
その瞬間、俺は全身が硬直した。
それは一瞬で解けない魔法にかかったようで、まばたきさえも出来ないほど。
前にも頬に触れられたりしたことはあったけど、俺の目を見つめるセフィロスさんの瞳が今まで以上に真剣で、その瞳にも魔法を強める威力があるようだった。
動けない身体とはうらはらに、心臓が思い切り跳ねて、凄くドキドキ言ってる。
この音、聞こえてないよなぁ……。
「……お前を、他の奴らのものにはしたくない……」