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恋を思って死ねたなら

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 アンドロイドに搭載できる記憶媒体──メモリや、CPUなどが、きっとこれに関係するのだろうと、レンはそっと嘆息する。新型といわれるレンやリンでさえ、夢中になれば何かを見失うことが多い。A.I.が進化しているというのに、そして搭載できるメモリなどの量が昔のロボットより格段に多くなっているにもかかわらず、である。いわんや、旧型であるカイトやメイコは──。

 伏せていた視線を上げる。すると、マスターと目が合った。マスターの目の色はこげた茶色によく似ている、とレンは思う。レンの青空のような瞳とは全く違ったそれは、やはりレンの瞳とは全く違う魅力を持っている。マスターの、見ている人をどこか安心させるような目を、レンは意味もなく見つめる。マスターの視線はすぐに外れたが、それを追うように見つめていると、不意にレンの手の平に触れる存在があった。リンである。レンはマスターに向けていた視線を外しリンをうろんげに見る。リンは僅かに怒気を孕んだ表情を浮かべていた。

「カイトさん、あたしとレン、誰に呼ばれてるんだっけ」

 とげとげしい声音に、リンが怒っていることを敏感に察したレンは、おそるおそるカイトを見上げる。カイトはリンの声に気づいていない。マスターに話しかけるという行動が、彼の思考を支配しているようだった。リンがじたんだするように足を床に打ち付け、カイトさん、カイトさん、と呼びかける。それでも気づかないカイトに、苦笑を漏らしたマスターがカイトの肩を揺さぶった。そのままリンの名前を口にする。カイトがぼんやりとした顔でリンへと振り返った。

「リン、どうかしたのかい」
「だーかーらあ! 誰に呼ばれてるのか、って訊いてるの!」
「ああ、うん、だからメイコさんだよ」

 無邪気に微笑む顔に、リンの怒りは急速に萎まったようだ。リンは怒りで膨らんだ頬から空気を抜くと、そのまま小さな声で感謝を述べると、レンを引っ張って部屋の扉へと向かう。カイトが入ってきたときから開いたままの扉を、素早く通り抜けた。引っ張られたままのレンはたたらを踏みながらもリンに続き、部屋から出る際にそっと振り向く。カイトの大きな背中に隠れたマスターを、見ることは出来なかった。


作品名:恋を思って死ねたなら 作家名:卯月央